この記事の要点(1分で読める版)
- Zscalerは、企業通信とアクセスの「通り道」をクラウドで押さえ、アクセスの都度ゼロトラスト判定で“必要最小限の接続”を提供してサブスク収益を積み上げる企業。
- 主要な収益源は、インターネット利用保護、社内/クラウドアプリへのアクセス制御(VPN置き換え含む)、データ保護であり、拠点/工場やSecOps(検知〜対応)へ拡張して契約単位を広げる狙いがある。
- 長期ファンダは売上が高成長(5年・10年CAGRは40%台)だが、EPSとROEは未成熟で赤字が続きやすく、FCFとFCFマージンが厚い二重構造が特徴。
- 主なリスクは、統合プラットフォーム競争の激化とSSE/SASEの同質化により差別化軸が「統合された運用体験」へ移ることであり、拡張(拠点/OT・SecOps)が統合難度と組織負荷を上げる点も脆さになる。
- 特に注視すべき変数は、(1)更新局面で中核として残れるか、(2)拠点/工場・協力会社アクセスの追加導入が積み上がるか、(3)SecOps拡張が発表ではなく運用成果として語られるか、(4)成長減速局面で投資配分が収益性改善と両立するか。
※ 本レポートは 2026-01-08 時点のデータに基づいて作成されています。
まず事業を一言で:Zscalerは何をして、誰からお金をもらうのか
Zscaler(ゾースケーラー)は、「会社の人がどこで働いていても、安全にインターネットや社内/クラウドの業務アプリを使えるようにする」ためのクラウド型セキュリティ基盤を提供する会社です。昔の定番だったVPN(社内へ入るためのトンネル)や拠点ごとのセキュリティ機器に代わり、通信の“通り道”をクラウド側に集約して、アクセスのたびに安全性と権限を判断します。
顧客は主に企業・組織(大企業、政府機関、重要インフラ、拠点や工場を多く持つ企業など)で、守られるのは社員・協力会社・委託先など「働く人たち」です。収益モデルはサブスクリプション型で、社員数や利用機能の範囲に応じて年額(または複数年)で利用料を受け取る構造です。
中学生でもわかる:Zscalerの3つの“稼ぎ頭”と提供価値
1)インターネット利用の保護:入口ではなく「通信そのもの」をチェックする
社員がネットにアクセスするたびに、その通信をいったんZscalerのクラウド側でチェックし、危険なサイトや怪しいダウンロード、会社ルールに反する通信を止めます。ポイントは、会社のオフィスに機械を置くのではなく、クラウドでまとめて守る設計にあることです。
2)社内/クラウドアプリへのアクセス制御:VPNより「必要な部屋だけ開ける鍵」
従来型VPNは「社内ネットワークに入れたら広く歩けてしまう」ことがあり、侵害時に被害が広がりやすい弱点がありました。Zscalerは“最初から全部は見せない”発想で、人や端末の安全性を確認した上で、その人に必要なアプリだけへ接続させ、余計な横移動(ラテラルムーブメント)を起こしにくくします。大企業がVPN廃止へ向かう流れの中で導入事例も出ています(例:T-Mobile)。
3)データ保護:うっかり漏えいも含めて「持ち出し」を止める
攻撃だけでなく、誤送信・誤共有などの“うっかり”も含めた情報漏えいを、通信内容やファイルの動きの監視で抑止します。分散勤務が進むほど、この「データのルールをクラウドで守る」価値は重くなります。
将来の柱:いま主力でなくても競争力を左右し得る3つの拡張
Zscalerの物語は「門番(アクセス制御)」で終わらず、対象領域を広げています。ここは、成長の再加速だけでなく、統合競争に耐えるための布石でもあります。
- セキュリティ運用(検知〜対応)の自動化・高度化:人手不足のSOC(セキュリティ運用)を支援するため、Red Canaryを買収し、AI(Agentic AI-driven Security Operationsの文脈)で運用を省力化する方向を強めています。「事件が起きた後の捜査と後始末」へ提供範囲を伸ばす動きです。
- 拠点・工場(OT/IoT含む)への拡張:工場や現場はレガシー機器や多様な端末が混在し、守りが難しくなりがちです。Zscalerは支店・キャンパス・工場向けの統合や、OT/IoTのセグメンテーション、協力会社アクセスなどを打ち出し、守備範囲を「社員中心」から「拠点・機器」へ広げています。
- AI時代のデータ基盤としての位置づけ強化:巨大な通信データを扱える立場にあり、そこへ運用ノウハウ(Red Canary)を重ねて「データを使って判断して動く」方向へ進化しやすい土台があります。
なぜ選ばれるのか:顧客が評価するTop3/不満に感じるTop3
顧客が評価する点(Top3)
- 分散した働き方でも同じルールで守れる一貫性:本社・在宅・出張先・拠点など、場所が変わってもポリシーを統一しやすい。
- ゼロトラスト設計による被害拡大(横展開)抑制:“必要なアプリだけに通す”設計は侵害時の被害を広げにくい。
- 大規模運用に裏打ちされたスケール/安定性:グローバルに巨大トラフィックを処理する経験が、検知・性能・レジリエンスへの信頼につながりやすい。
顧客が不満に感じる点(Top3)
- 導入・移行の難しさ:VPN置き換えや拠点統合は設計・運用の作り替えを伴い、初期プロジェクトが重くなりやすい(価値が大きいほど“大工事”になりがち)。
- 統合が進むほどベンダーロックインへの抵抗:単一ベンダーへの集約は合理的でも、セキュリティは失敗が致命傷になり得るため心理的抵抗が残りやすい。
- SOC領域に広げるほど期待値管理が難しい:門番で強い評価を取った企業が運用(検知〜対応)へ広げると、買収統合初期は“体感価値が追いつかない”不満が出やすい。
長期の数字が示す「企業の型」:売上はFast Grower級、利益は未成熟、でもキャッシュは強い
長期ファンダメンタルズを見ると、Zscalerは「売上は非常に強い成長を続ける一方で、会計上の利益(EPS)は赤字が続きやすいが、フリーキャッシュフロー(FCF)は厚い」という二重構造が目立ちます。
売上:10年で“右肩上がり”が続いてきた
年次売上はFY2015の0.05BドルからFY2025の2.67Bドルへ拡大し、10年CAGRは約47.8%、5年CAGRも約44.0%と高水準です。長期で見ると「一方向の拡大」が中心で、循環的な山谷を繰り返すタイプとは読み取りにくい形です。
EPS:赤字は続くが、損失幅は縮小してきた
年次EPSはFY2021 -1.93、FY2022 -2.77、FY2023 -1.40、FY2024 -0.39、FY2025 -0.27と、赤字圏ながら改善方向が確認できます。赤字が続くため、5年・10年のEPS成長率(CAGR)は算出できず、「黒字化済みの成長株」と同じ物差しで単純比較しにくい局面です。
FCF:5年CAGR約92.5%、FCFマージンも20%台へ
FCFはFY2015の-0.01BドルからFY2025の0.73Bドルへ改善し、5年CAGRは約92.5%です。FCFマージンはFY2021以降おおむね20%台で推移し、FY2025は約27.2%。さらにTTMのFCFマージンは約29.9%と高水準です。会計利益が赤字でもキャッシュが出ているタイプである、という事実は投資家にとって重要です。
ROEとマージン:会計利益は赤字、ただし“赤字度合い”は縮小
最新FY(FY2025)のROEは-2.31%でマイナスです。ただし過去5年の分布では赤字幅が小さい側に位置しており、損失率の縮小が進んできた形です。マージン構造も同様で、FY2025の粗利率は約76.9%と高水準ですが、営業利益率は約-4.81%、純利益率は約-1.55%と会計上は赤字です。一方で、FY2025の営業キャッシュフロー・マージンは約36.4%、FCFマージンは約27.2%とキャッシュ側は強い、という二重構造が続いています。
株式数:希薄化方向という“成長の代償”もある
発行株式数はFY2015の26.1MからFY2025の154.4Mへ増加しており、希薄化方向です。これはEPSの見え方に不利な方向へ働き得るため、売上成長だけでなく「1株あたり」に落とし込んだときの成果がどうなるかは継続観察が必要です。
リンチの6分類で見ると:最も近いのはFast Grower寄りの“ハイブリッド”
機械判定ではFast Grower / Stalwart / Cyclical / Turnaround / Asset Play / Slow Growerのいずれにもフラグが立っていません。背景はシンプルで、売上はFast Grower級(5年・10年CAGRが40%台)なのに対し、EPS・ROE・営業利益率がまだマイナスで「典型的なFast Grower(利益も積み上がる)」としては未完成だからです。
また、年次売上が連続増収で山谷が見えにくいためCyclicalとは言いにくく、赤字縮小は進んでいても黒字転換済みと断定できないためTurnaroundとも言い切れません。したがって、投資家の実務的な捉え方としては「Fast Grower的な売上成長×会計利益は未成熟、ただしキャッシュ創出は強いハイブリッド型」が最もしっくりきます。
足元の勢い:長期平均からは減速、ただし“型”は維持されている
ここは投資判断で特に重要です。長期で見た「型(売上は強い、利益は未成熟、キャッシュは強い)」が、直近でも崩れていないかを確認します。
直近TTM:売上+23.238%、FCF+30.055%、EPSは赤字だが改善
- 売上成長率(TTM、前年同期比):+23.238%
- フリーキャッシュフロー成長率(TTM、前年同期比):+30.055%
- EPS(TTM):-0.2588(赤字)、EPS成長率(TTM、前年同期比):+8.836%
売上とFCFはしっかり成長し、TTMのFCFマージンも約29.9%と高いままです。一方でEPSは赤字のままで、改善しているとはいえ黒字化には至っていません。つまり、「キャッシュは強いが会計利益は未成熟」という長期の型は、短期でも概ね維持されている整理になります。
なお、FY(年次)とTTM(直近4四半期)では期間が異なるため、同じ指標でも見え方が変わることがあります。これは期間の違いによる見え方の差であり、矛盾と断定すべきものではありません。
“減速”の意味:崩れたのではなく「超高成長→高成長」へ
短期モメンタム判定はDecelerating(減速)です。理由は、直近TTMの伸びが、過去5年平均(5年CAGR)を明確に下回るためです。たとえば売上はTTM+23.238%に対し、5年CAGRは約44.0%。FCFもTTM+30.055%に対し、5年CAGRは約92.5%です。
ただし、直近2年(8四半期)で見ると売上の2年CAGRは約22.3%、FCFの2年CAGRは約30.1%で、方向としての成長トレンド自体は続いています。したがって、足元は「失速」と断定するより、中期の“超高成長”から、直近の“高成長”へ移行している可能性として整理するのが自然です。
収益性の改善:営業赤字は縮小が続く
利益率面では、FY2023の営業利益率約-13.3%→FY2024約-5.7%→FY2025約-4.81%と、直近3年(FY)で赤字幅の縮小が確認できます。FCFマージン(FY)もFY2023約20.6%→FY2024約27.0%→FY2025約27.2%と高水準を維持しています。
財務の安全性:ネット現金寄りの示唆と、利払い能力の“見え方”の二面性
倒産リスクは、単に利益が出ているかではなく、負債構造・キャッシュクッション・利払い能力を合わせて見ます。
- Net Debt / EBITDA(最新FY):-15.80倍(逆指標で、小さいほど=マイナスが深いほど、現金が厚い状態を示しやすい)
- 現金比率(最新FY):1.47
- 負債資本比率(最新FY):約1.00倍
- インタレスト・カバレッジ(最新FY):-0.92(会計利益が弱い局面のため、利益指標上は強いと言いにくい見え方)
整理すると、Net Debt / EBITDAはネット現金寄りを示唆し、キャッシュクッションは厚い側に見えます。一方で、会計利益が弱いため、利払い余力は利益指標では弱く見える、という二面性があります。現状のデータからは「実質負債が重くなって無理に成長している」形が強いとは言えない一方、利益面の改善が長引くと経営の自由度が削られ得る点は観測対象になります。
資本配分:配当は主要テーマではなく、成長投資とキャッシュ創出が軸
少なくとも本データ上では、直近TTMの配当利回り・1株配当はいずれも確認できず、配当は投資判断上の主要テーマになっていません。価値創造は、配当ではなく事業成長への再投資と、結果として積み上がっているキャッシュ創出力(TTMのFCF 8.48億ドル、TTMのFCFマージン約29.9%)を軸に捉えるのが自然です。
キャッシュフローの質:なぜ「赤字でもFCFが厚い」のか
Zscalerは、会計上の利益(EPS)が赤字でも、FCFマージンが高く推移しています。このタイプの企業では、投資家として少なくとも次の2点を切り分けて理解する必要があります。
- EPSの未成熟が「投資の結果」なのか:成長投資(開発・販売・運用強化)を優先し、会計利益が後回しになりやすい局面である可能性。
- FCFの強さが「一時的」ではないか:FCFは売上の伸びだけでなく、回収条件や費用計上タイミングでも動き得るため、TTMとFYの期間差も踏まえつつ、複数年で持続性を確認する必要。
現時点の事実としては、FYでもTTMでもFCFマージンが高水準で、長期の改善が確認できる一方、会計利益はまだ未成熟という構図です。ここが同社の“投資家向けの読みどころ”になります。
評価水準の現在地(自社ヒストリカルのみ):6指標で整理する
ここでは市場比較や同業比較をせず、Zscaler自身の過去(主に5年、補助で10年)に対して、いまどこにいるかだけを整理します。なお、利益がマイナスの局面ではPERやPEGは解釈が難しく、過去分布が組めないことがあります。その場合は「評価が難しい」という事実として扱います。
PEG:現在-97.41、ただし過去レンジ比較はできない
PEGは-97.41です。ただし過去5年・10年の分布はデータが十分でなく構築できないため、「過去レンジ内外」という位置づけはできません。EPS(TTM)が-0.2588とマイナスであることが、負のPEGにつながっています。
PER:現在-860.74倍、過去レンジ比較はできない
EPS(TTM)がマイナスのため、PER(TTM)は-860.74倍です。この状態ではPERは投資判断指標として機能しにくく、過去5年・10年の分布も構築できないため、ヒストリカルな位置づけはできません。
フリーキャッシュフロー利回り(TTM):2.39%で、過去5年・10年の上側
FCF利回りは2.39%で、過去5年中央値1.42%を上回り、過去5年・10年の通常レンジ上限も上回る位置です(自社ヒストリカル内では利回りが高い側)。一方、直近2年の四半期推移では利回りは低下方向の局面も見え、ここは「2年の方向性」と「現時点の水準」を分けて理解する必要があります。
ROE(最新FY):-2.31%で、過去比では赤字幅が小さい側
ROEは-2.31%でマイナスです。ただし過去5年・10年の分布では通常レンジ上限を上回る位置(=損失が小さい側)にあります。直近2年は改善方向が続いた後、揺れを伴いながらもマイナス幅が小さい水準で推移しています。
FCFマージン(TTM):29.93%で、過去5年・10年の上側
FCFマージン(TTM)は29.93%で、過去5年中央値21.36%を上回り、過去5年・10年の通常レンジ上限も上回る位置です。直近2年の四半期ベースでも上昇方向が確認され、キャッシュ創出の“比率”としては過去対比で高い局面にあります。
Net Debt / EBITDA(最新FY):-15.80倍でネット現金寄り(逆指標)
Net Debt / EBITDAは逆指標で、小さいほど(マイナスが深いほど)現金が厚い状態を示しやすい指標です。最新FYは-15.80倍で、過去5年の通常レンジ内では下限に近く、過去10年では通常レンジを下回ってよりマイナス側(ネット現金寄り)に位置しています。直近2年は極端な値を含み変動が大きいものの、足元はマイナス圏にあります。
成功ストーリー:Zscalerはなぜ勝ってきたのか
同社の勝ち筋は、「企業通信とアクセスの通り道を押さえる」ことで、セキュリティを“運用そのもの”に埋め込める点にあります。VPNのように「入ってから守る」発想ではなく、アクセスの都度「この人・この端末・この状況で、どのアプリだけ許すか」をクラウド側で制御する。侵害が起きたときに被害を横展開させない、という安全設計の必然性が導入動機になりやすいことも特徴です。
さらに、グローバル規模で巨大なトラフィックを処理する“セキュリティ・クラウド”の運用経験が、検知精度、レイテンシ、安定性といった品質に効きやすいタイプの事業です。これは「規模がデータと運用学習を通じて優位を作る」ネットワーク効果(ただしSNSのような直接効果ではなく、運用学習型)につながります。
ストーリーは続いているか:最近の動き(拠点/OT・SecOps)との整合性
1〜2年前と比べたナラティブの変化は大きく3つです。
- ゼロトラスト=リモートワーク中心から、拠点/現場/OTまでへ:守る境界が組織全体に広がった、というメッセージになっています。
- 門番(アクセス制御)から、運用(検知〜対応)へ:Red Canary買収完了により、計画から実行フェーズへ進んだ形です。
- 数字との整合:長期平均から成長率が落ち着く局面で、守備範囲拡大で成長の角度を作り直す狙いは、売上・FCFは強いが超高成長から減速しているファンダの姿と整合します。
ただし、この整合は「うまくいけば自然」という意味であり、拡張は実行難度も上がるため、次の“見えにくい脆さ”と表裏一体です。
Invisible Fragility(見えにくい脆さ):強そうに見えるほど注意したい8点
- エンタープライズ集中のブレ:大企業・政府・重要インフラに寄るほど案件が大型化・長期化し、四半期〜年度の見え方がブレやすい。統合志向が強まるほど「勝てば深いが、負けるとまとめて失う」局面が生まれやすい。
- 統合プラットフォーム戦争の激化:競争相手が単体の強者ではなく“周辺を含む総合力”になり、M&Aで土俵が動きやすい。
- SSE/SASEのコモディティ化:市場成熟で「似た機能」に見え始めると、差別化は思想ではなく運用体験・統合の滑らかさ・可視化/自動化の深さへ移る。
- 外部連携依存の増加:製造のサプライチェーン依存は小さくても、SOC拡張やパートナー連携が増えるほど、データ連携・権限設計・運用フロー整合がボトルネックになり得る。
- “広げすぎ”による実行品質低下:買収統合、販売の複雑化、サポート/運用高度化を同時に回す局面で文化・採用・現場負荷が崩れると、顧客体験の劣化が数字より先に出やすい。
- ROE/マージンの逆回転:成長鈍化に対して投資を積み増し、会計側の赤字縮小が止まる、あるいはSOC拡張でコスト構造が重くなりキャッシュの質が落ちる、というパターンが起き得る。
- 利払い能力の悪化(指標上弱く見える):キャッシュが厚くても会計利益が追いつかない期間が長引くと、経営の自由度が削られやすい。
- ゼロトラストの“定義競争”:言葉の定義自体が競争軸になり、顧客が「統合」を強く求めるほど、思想の純度だけでなく“統合後の一枚岩の体験”で選ばれる必要が増す。
競争環境:Zscalerは誰と何を争っているのか
Zscalerの土俵は、SSE/SASE(クラウドで通信とアクセスを守る)を中核に、ゼロトラスト、データ保護、拠点・工場向け統合、そしてSecOps(検知〜対応)へ広がっています。競争は「設計思想の優劣」だけでなく、「規模と統合(プラットフォーム化)」の勝負へ寄りやすく、2025年以降は業界の統合志向とM&Aが競争圧力を強めています。
主要競合プレイヤー(導入現場で登場しやすい顔ぶれ)
- Palo Alto Networks(統合プラットフォームの代表格としてぶつかりやすい)
- Netskope(SSE/SASE中核で直接競合しやすい)
- Fortinet(ネットワーク×セキュリティ統合の文脈で強い)
- Cisco(既存ネットワーク基盤を持つ大口顧客で受け皿になりやすい)
- Cloudflare(グローバルネットワーク基盤を背景に検討対象に入り得る)
- CrowdStrike(隣接のEDR/SecOpsからプラットフォーム主導権を取りに来る圧力。提携で補完関係にも)
領域別の争点:何で勝ち、何で負け得るか
- SSE:インライン検査品質、ポリシー統合、運用負荷、可視化、データ保護の一体性。
- SASE:単一ベンダーに寄せたときの統合体験、拠点展開、運用品質、ネットワークとセキュリティの一体運用。
- ZTNA(VPN置き換え):段階移行のしやすさ、例外運用、レガシーとの共存、実装力。
- SecOps:検知〜対応のワークフロー一体性、ノイズ削減、対応時間短縮など“運用成果”。
モート(競争優位)の中身と耐久性:強みは「通り道」と運用学習、弱点は「統合体験」
Zscalerのモートの中心は、(1)グローバルに安定稼働するクラウド型の中継・検査基盤、(2)運用データと学習(規模が品質に効く)、(3)エンタープライズ移行プロジェクトをやり切る実装力、にあります。アクセス制御が企業運用に深く組み込まれるほど、ポリシーや例外運用が“運用資産”になり、スイッチングコストが高まりやすい構造です。
一方で、SASEプラットフォーム化が進むほど比較軸は「単機能」から「統合された体験」へ移ります。このとき周辺(ネットワーク、エンドポイント、SOC)の“穴”がモートを薄くする方向に働き得ます。Zscalerは「単独で全部抱える」よりも、パートナー連携(例:CrowdStrikeとの連携強化)も含めた統合体験づくりへ寄せていますが、ここは連携品質がボトルネックになり得る点も同時に抱えます。
AI時代の構造的位置:追い風だが、差別化は「AIがあるか」ではなく「運用成果」へ
AI時代のZscalerは、アプリ企業というより企業インフラ(ミドル)寄りです。企業通信の接点データを高頻度で観測できる立場は、AIによる検知・自動化に接続しやすい追い風があります。
- ネットワーク効果:顧客数・通信量の増加が、検知精度や運用品質の学習に間接的に効く(運用学習型)。
- データ優位性:「ユーザー×アプリの接点データ」に加え、Red Canaryにより運用側の文脈データを束ねる方向が強まる。
- AI統合度:単機能追加よりも、検知→調査→対応の省力化、さらに“検知→遮断・制御へフィードバック”する閉ループ化で価値が出やすい。
- ミッションクリティカル性:止まると業務停止に波及しやすい領域で、対象が拠点・現場へ広がるほど重要度(止められない度合い)が増す。
- AI代替リスク:丸ごと代替は相対的に起きにくい一方、SSE/SASEが同質化すると差別化は「統合された運用体験(例外処理・可観測性・自動化の実効性)」へ移り、ここが弱いと価格・統合力で不利になり得る。
リーダーシップと文化:創業者CEOの一貫性は強み、拡張期の実行負荷は観測点
創業者兼CEOのJay Chaudhryは、「VPN/ファイアウォール中心の境界防御から脱却し、ゼロトラストで“必要なものだけに接続させる”」という思想を長期にわたり中核に据えています。直近では、(1)拠点・現場・マルチ環境へゼロトラストを広げる、(2)SecOpsへ踏み込みAIで運用の閉ループを作る、という追加の柱が明確化しています。
人物像としては、既存構造を前提ごと作り替える語り口が目立つ一方、「自社が全部やる」よりパートナー/エコシステム前提を繰り返す点が特徴です。これは統合競争において連携品質が重要になる同社の状況とも整合します。
長期投資家にとっては、思想の一貫性とキャッシュ創出が投資継続の体力になり得る一方、拡張期は文化負荷が増えやすい局面です。CFO交代(2025年5月発表)や体制補強はスケールに向けた強化と読める一方、移行期のオペレーション負荷増を示唆し得ます。またCTO退任の報道もあり、技術組織の継続性・権限設計は観測対象になります(一次情報での確認が望ましい、という留保が必要です)。
なお従業員体験について、2025年8月以降の変化を一般化できる一次情報が十分でないため、ここは断定せず「拡張期に起こりやすい一般パターン(同時並行テーマ増→負荷増、導入“大工事”案件の調整負荷増)」として観測仮説に留めます。
KPIツリーで理解する:企業価値を動かす因果(投資家の観測点)
Zscalerの価値は、サブスクモデルのため「顧客が増える」「同じ顧客が適用範囲を広げる」「更新が続く」ことで積み上がります。その因果をKPIツリーとして見ると、観測すべきポイントが明確になります。
最終成果(アウトカム)
- 売上の持続的な成長(新規獲得+既存拡張)
- キャッシュ創出力の拡大(FCFの厚み)
- 収益性の改善(赤字幅の縮小〜黒字化へ)
- 資本効率の改善(ROEなど)
- 事業の耐久性(中核がインフラとして定着し、更新・継続が起きる状態)
中間KPI(価値ドライバー)
- 顧客基盤の拡大(導入企業数・導入範囲の増加)
- 1社あたりの契約拡張(データ保護、拠点/工場、SecOpsなどの追加導入)
- 更新・継続の強さ(解約の低さ、更新時の維持・拡張)
- 導入プロジェクトの実行力(設計・移行・運用定着までやり切れるか)
- 運用品質(安定性・性能・検知の再現性)
- 統合体験の完成度(周辺領域との連携の滑らかさ)
- 投資配分の最適化(成長投資と収益改善のバランス)
制約(摩擦)とボトルネック仮説
- 導入・移行の難しさ(VPN置き換え、拠点展開、例外運用が“大工事”化)
- 統合難度の上昇(拠点/OTやSecOpsへ広げるほど一枚岩化が難しい)
- 競争軸の変化(単機能→統合体験へ)
- 期待値管理(運用領域で体感価値が追いつくか)
- 投資負担・組織負荷の増加(同時並行テーマ増による実行品質低下)
投資家が実務で追うなら、「導入が重い案件で成功確度が落ちていないか」「更新局面で中核として残れているか」「拠点/工場の追加導入が自然に積み上がっているか」「SecOpsが“発表”ではなく運用成果として語られるか」「連携品質がボトルネックになっていないか」「成長が落ち着く局面で投資配分が利益改善と両立しているか」が要点になります。
Two-minute Drill(長期投資家向け総括):この銘柄の“骨格”は何か
- Zscalerの本質は「企業通信とアクセスの通り道」をクラウドで押さえ、都度判断で“必要最小限の接続”を実現するゼロトラスト基盤にある。
- 長期の型は、売上がFast Grower級で伸びる一方、EPSとROEはまだ未成熟(赤字)だが、FCFマージンが高いという二重構造である。
- 足元は長期平均から減速(超高成長→高成長)しているが、売上・FCFの成長トレンドと営業赤字縮小は続き、型は概ね維持されている。
- 競争は「ゼロトラストの中核」から「統合プラットフォーム戦争」へ移り、差別化は機能よりも統合された運用体験(特にSecOps統合の成果)で決まりやすくなる。
- 最大の見えにくいリスクは、守備範囲拡大(拠点/OT・SecOps)が“成長の角度”になる一方で、統合難度と組織負荷を上げ、体験品質が崩れると更新局面で外され得る点にある。
AIと一緒に深掘りするための質問例
- 拠点・工場・OT/IoTへゼロトラストを広げるときに起きやすい「失敗パターン(権限設計、例外運用、レガシー機器、停止できない業務)」を列挙し、Zscalerの打ち手がどこまで潰せているかを点検して。
- Red Canary統合によるSecOps拡張で、顧客価値が体感されるまでの「統合の順番(検知→調査→自動化→遮断フィードバック)」を現実的なロードマップとして提案して。
- SSE/SASEが同質化した場合、購買意思決定の評価項目(運用負荷、可観測性、例外処理、統合体験、移行容易性、価格/条件)に翻訳すると、Zscalerが勝ちやすい条件と負けやすい条件は何か。
- 会計利益(EPS)が赤字でもFCFマージンが高い構造について、一般論として起こり得る要因を分解し、Zscalerで追加確認すべきデータ(例:費用構造、回収条件、投資配分)を挙げて。
- 統合プラットフォーム勢(例:Palo Alto Networks、Cisco等)のM&Aや統合戦略が進む中で、Zscalerが「中核として残る」ための最重要な差別化ポイントを1〜3個に絞って説明して。
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