この記事の要点(1分で読める版)
- Atlassianは、タスク(Jira)・文書(Confluence)・運用ログ(JSM)を企業の「仕事の正本」として定着させ、サブスクで稼ぐ業務基盤企業。
- 主要な収益源は席数とプラン(上位ほど管理・統制が強い)に連動する継続課金で、近年はTeamwork Collectionによるセット化とRovoによる横断AIを軸に拡張を狙う。
- 長期では売上とFCFが高成長(売上5年CAGR+26.4%、FCF5年CAGR+21.3%)だが、EPSとROEはマイナスが残り「成長×利益未確立」のハイブリッド型になる。
- 主なリスクは価格改定による更新時の再評価増、AIの使いこなし格差による拡張鈍化、統合プラットフォーム(Microsoft/ServiceNow等)による周辺化圧力、買収や新領域同時進行による組織・費用摩擦。
- 特に注視すべき変数はセット導入の深さ、大企業での統制要件の採用状況、AIが検索・要約から実務の次工程へ入っているか、利益の安定が売上成長に追いつくか(TTMのEPS悪化が続くか)にある。
※ 本レポートは 2026-01-08 時点のデータに基づいて作成されています。
この会社は何をしている?(中学生でもわかる事業説明)
Atlassian(TEAM)は、会社の中で仕事を進めるための「共同作業の道具箱」を提供する企業です。個人のメモや口約束で仕事を回すのではなく、チームの仕事を“見える化して、整理して、確実に前に進める”ための仕組みをソフトウェアで作ります。
特徴は、単なる便利ツールではなく、タスク・文書・問い合わせ対応といった「仕事の記録」と「仕事の流れ(ワークフロー)」を会社の中に定着させる点です。近年はさらに、複数製品をセットで使わせる「コレクション化」と、AIを組み合わせて「人とAIが一緒に働く」方向へ寄せています。
顧客は誰か
基本は企業向け(B2B)です。ソフトウェア開発企業だけでなく、製造業・金融など幅広い業種が対象になります。使う部門も、開発・IT運用だけでなく、企画、営業、デザイン、バックオフィスなど「チームで仕事を回す」部門全般へ広がり得ます。近年は大企業のクラウド移行支援にも力を入れています。
主力プロダクト(いまの稼ぎの柱)
- 仕事の管理ツール(開発・プロジェクト管理):やること、担当、期限、詰まりをチームで共有し、進捗を追うための仕組み(代表格がJira)。
- 社内の情報をためる・整理するツール(社内Wiki):手順書、議事録、設計資料などを探しやすくし、知識を属人化させない(代表格がConfluence)。
- ITサポートと運用の受付(ヘルプデスク):社内問い合わせを受け付け、優先度付けし、対応状況を追える(代表格がJira Service Management)。
- 複数製品をまとめて使わせる「セット販売(コレクション)」:Jira、Confluence、Loom、Rovoなどを“共同作業スタック”として束ね、単品比較から「仕事の流れ全体」で選ばせる。
どうやって儲けるのか(収益モデル)
基本はサブスクリプション(サブスク)です。企業が利用人数(席数)やプラン(上位ほど管理・統制が強い)に応じて月額・年額で支払います。いったんチームの仕事の流れに入り込むと、乗り換えは“ツール変更”ではなく“業務の再設計”になりやすく、長期利用につながりやすい構造です。
また、クラウド利用を増やすことが重要テーマで、大企業の移行が進むほど、セキュリティ・監査・管理などの要件を満たす上位プランの価値が出やすいと整理できます。
なぜ選ばれているのか(提供価値)
- 「チームの仕事を止めない」土台になる:進捗が見え、情報が散らばらず、トラブル対応の流れが整う。
- 開発・IT現場で定番になりやすい:複雑で関係者が多い領域で標準になると、他部門にも横展開しやすい。
- AIで「探す・まとめる・次の行動」を速くする:社内知識を横断して探し、質問に答え、作業まで手伝うAI(Rovo)を強く押し出す。
将来に向けた伸びしろ(将来の柱候補)
Atlassianは、既存の共同作業ツールにAIを載せるだけでなく、仕事の入口や、成果の測定まで取りに行く動きが見えます。将来の柱候補は大きく3つです。
- Rovo中心の企業向けAI(検索・チャット・エージェント):タスク・文書・問い合わせのデータと権限に結びつくため、現場の仕事に直結しやすい。企業向けに権限管理などの要件を重視。
- 開発生産性の計測・改善(DXの買収):AI投資が増えるほど「本当に速くなったのか」を測りたくなる。開発管理ツールとつながると、改善の打ち手の提案まで一体化し得る。
- 仕事の入口を押さえる可能性(AIブラウザ Dia):ブラウザは“仕事の入り口”。タブやアプリを行き来する文脈をAIがまとめられると価値が出る一方、競争が激しい領域で投資回収難度も上がり得る。
競争力に効く「内部インフラ」:共通AI基盤と安全な運用設計
企業向けAIは「便利」だけでなく「見てはいけない情報を見ない」仕組みが重要です。AtlassianはRovoを、権限を守る設計や管理機能、データの扱いに配慮した形で提供しようとしており、ここが長期の土台になり得ます。
例え話(1つだけ)
Atlassianは、チームの仕事を「タスクの掲示板」「社内のノート置き場」「問い合わせ受付」「それらを横断して手伝うAI」として一つにまとめ、「みんなが同じ地図を見ながら走れる」ようにする会社です。
ここまでが「何の会社か」です。次に、長期投資で重要な“数字の型”を見て、会社の成長ストーリーがどの程度「完成」しているのかを整理します。
長期ファンダメンタルズ:売上とFCFは強いが、利益は未完成
売上の長期推移:規模拡大ははっきり
売上は長期で一貫して増加しています。FY2013の1.49億ドルからFY2025は52.15億ドルへ拡大し、年次の成長率は過去5年CAGRが+26.4%、過去10年CAGRが+32.2%と高い伸びが確認できます。
EPS・純利益:会計利益は長期でマイナスが続く
一方でEPS(年次)はFY2017以降マイナスが続き、FY2025のEPSは-0.98、FY2025の純利益も-2.57億ドルです。利益系列がマイナス中心のため、EPSの5年・10年CAGRは成長率として整理できません(この期間では評価が難しい、という意味です)。
フリーキャッシュフロー(FCF):赤字でもキャッシュは出る
会計利益がマイナスでも、FCFは長期で拡大しています。FY2013の0.47億ドルからFY2025は14.16億ドルへ増え、5年CAGRは+21.3%、10年CAGRは+36.0%です。FY2025のFCFマージンは27.1%で、年次では概ね20%台後半〜30%台のレンジで推移しています。
マージンとROE:粗利は高いが、営業・純利益が残りにくい
売上総利益率は長期で80%台(FY2025は82.8%)と高水準です。対して営業利益率はプラスとマイナスを行き来し、直近FYではマイナス(FY2023 -9.8%、FY2024 -2.7%、FY2025 -2.5%)です。純利益率もFY2017以降マイナス圏で、FY2025は-4.9%でした。
ROE(最新FY)は-19.1%で、資本効率の観点では完成形に達していない状態が続いています。
リンチ的な「型」:Fast Grower単独ではなく、成長×利益未確立のハイブリッド
Atlassianは、売上とFCFが長期で力強く伸びる一方、EPSとROEが長期的にマイナス圏にあり、リンチの6分類に素直に当てはめにくい銘柄です。
- 売上の長期成長率は高く、見た目はFast Grower的(5年CAGR +26.4%、10年CAGR +32.2%)。
- FCFも強く、キャッシュ創出力は確認できる(5年CAGR +21.3%、10年CAGR +36.0%)。
- ただしROEは最新FYで-19.1%とマイナスで、収益性が「安定した完成形」とは言いにくい。
このため、現時点の整理としては「高成長の売上 × 利益は未確立(利益面は回復途上の要素があるが、完了ではない)」というハイブリッド型が最も近い、という位置づけになります。サイクル株(Cyclical)らしい売上の波は見えにくく、資産株(Asset Play)としての性格も薄い一方、ターンアラウンド(Turnaround)と断定するには黒字定着が未確認です。
足元(TTM/直近8四半期の代替として):長期の型は維持、ただし「減速」と利益悪化が目立つ
長期で見えたハイブリッド型が、直近1年(TTM)でも成り立っているかを点検します。
売上:二桁成長は維持、ただし長期平均よりは減速
売上(TTM)は54.60億ドル、成長率(TTM YoY)は+19.513%です。過去5年の売上CAGR(+26.4%)と比べると、直近1年は伸びが低く、期間の違いとして「減速」と見えます。ただし二桁成長は維持しています。また、直近2年の売上CAGRは+18.4%で、足元の+19.5%はこの近辺で推移しており、急崩れというより「二桁で安定しつつ、長期平均より低い速度」と整理できます。
EPS:マイナス継続に加えて前年同期比で悪化
EPS(TTM)は-0.7026で、EPS成長率(TTM YoY)は-53.359%です。利益が未確立という長期の見立てとは整合しますが、「回復途上」というニュアンスを足元1年で強く言える状況ではなく、少なくともTTMでは悪化が確認されます。
FCF:プラスで厚いが、成長率は鈍化
FCF(TTM)は14.42億ドル、成長率(TTM YoY)は+8.749%、FCFマージン(TTM)は26.412%です。キャッシュ創出が厚いという長期の型は維持しています。一方で、過去5年のFCF CAGR(+21.3%)を下回っており、直近1年はキャッシュ成長の勢いが落ちている、という意味で「減速」が見えます。
営業利益率(FY):改善後に横ばい、なおマイナス
FYベースの営業利益率はFY2023 -9.8% → FY2024 -2.7%と大きく改善し、FY2025 -2.5%で横ばいに近い動きです。FYとTTMは期間が異なるため見え方が変わり得ますが、少なくとも「黒字定着には至っていない」という点は一貫します。
短期モメンタムの総合判定:Decelerating(減速)
売上とFCFはプラス成長を維持している一方、直近1年の伸びが過去5年平均を下回り、EPSは悪化しているため、短期モメンタムは「減速」と整理されます。需要側が急崩れしているというより、「利益(EPS)の悪化」と「FCF成長の鈍化」が弱点として残る局面です。
財務健全性:ネット現金寄りの示唆と、利払い余力の弱さが同居
投資家が最も気にする倒産リスクは、「手元資金」「負債構造」「利払い能力」の組み合わせで見ます。Atlassianは、財務クッションの厚みを示唆する点と、会計利益側の弱さが利払い余力に出ている点が同居しています。
資本構成と流動性(FY/直近)
- 自己資本比率(FY2025):22.3%
- D/E(FY2025):0.92
- 現金比率(FY2025):0.92、直近は0.97前後で推移
- 当座比率は直近でデータが十分でなく断定しにくいが、少なくとも現金比率は1に近い水準で推移
ネット有利子負債/EBITDA:大きなマイナス(ネット現金寄り)だが解釈には注意
Net Debt / EBITDA(最新FY)は-70.65です。これは「値が小さい(よりマイナス)ほど現金が有利子負債を上回りやすい」逆指標であり、数値だけ見るとネット現金寄りの度合いが強い局面にあります。実際に自社の過去分布対比でも、過去5年・10年の通常レンジを下に抜けています。
ただし、EBITDAが小さい/不安定な局面では指標が極端になりやすい点には注意が必要で、ここは「そうなっている事実」として押さえつつ、過度な断定は避けるのが合理的です。
利払い能力(直近・四半期ベース):利益側の弱さが表面化
- 利息カバーは直近でマイナス(-5.5程度)で、会計利益側の弱さが利払い余力にも出ている。
- キャッシュフローによる支払いカバーは直近で0.105程度と低めで、「FCFは出るが、支払い余力が盤石とまでは言いにくい」水準として整理される。
総合すると、倒産リスクは短期に断定できるものではありませんが、「ネット現金寄りの示唆」という強みがある一方、利益改善が遅れると利払い余力という観点で“気持ちよくはなりにくい”バランスです。
評価水準の現在地(自社ヒストリカルのみで確認)
ここでは市場平均や同業比較ではなく、この企業自身の過去分布(主に過去5年、補助で過去10年)に対して、いまどこにいるかを整理します。株価の前提は本レポート時点の153.88ドルです。
PEG:現在値はあるが、自社レンジが作れず現在地は置けない
PEGは4.1046倍です。ただし過去5年・10年の中央値や通常レンジを作るための情報が不足しており、自社ヒストリカルの中での位置づけは評価が難しい状態です。背景として、直近のEPS成長率(TTM YoY)が-53.359%とマイナスである点も、PEGの解釈を難しくします。
PER:EPSがマイナスのため、レンジ比較が成立しにくい
PER(TTM、現在株価ベース)は-219.02倍です。EPS(TTM)がマイナスのため、通常のPERレンジ比較(高い/低い)の文脈では扱いにくく、過去分布による現在地整理もこの期間では評価が難しい状態です。
フリーキャッシュフロー利回り:自社過去より高い利回り側
FCF利回りは5.577%です。過去5年の通常レンジ(1.153%~2.264%)と比べて上抜けしており、過去10年の通常レンジ(1.219%~2.282%)と比べても上抜けしています。自社ヒストリカルの中では「高い利回り側」に位置する、という事実が確認できます(これは投資判断の結論ではなく、位置の説明にとどまります)。
ROE:マイナスだが、過去5年比ではマイナスが浅い側
ROE(最新FY)は-19.08%です。過去5年の通常レンジ上限(-27.096%)より上(マイナスが浅い)に外れており、過去5年比では相対的に良い側に位置します。一方、過去10年の通常レンジ(-121.946%~-11.006%)の内側で見ると上側寄り(マイナスが浅い側)にいます。なお、依然としてマイナス圏である点は変わりません。
FCFマージン:レンジ内だが、過去5年・10年では下側寄り
FCFマージン(TTM)は26.412%です。過去5年の通常レンジ(26.182%~33.666%)の内側ですが、過去5年の分布では下位40%付近とされ、位置としては下側寄りです。過去10年の通常レンジ内でも下側寄りという見え方になります。
Net Debt / EBITDA:自社過去レンジを下抜け(よりネット現金寄りの局面)
Net Debt / EBITDA(最新FY)は-70.65で、過去5年・10年の通常レンジ下限(-45.93/-46.66)を下に抜けています。前提どおりこの指標は逆指標であり、「よりマイナス」ほど現金超過に近い状態を示しやすい点を明示した上で、自社ヒストリカルの中ではネット現金寄りの度合いが強い側にある、と整理できます。
評価水準のまとめ(6指標を並べたときの見え方)
- PERとPEGは、自社過去レンジを作る前提データが不足しており、現在地マップを作りにくい。
- キャッシュフロー側では、FCF利回りが自社の過去5年・10年の通常レンジを上回る位置にある。
- ROEはマイナスだが、過去5年比ではマイナスが浅い側に位置する。
- FCFマージンはレンジ内だが、過去5年・10年で見ると下側寄りにある。
- Net Debt / EBITDAは自社レンジを下抜けし、ネット現金寄りの局面を示唆する。
キャッシュフローの傾向:「利益は弱いがFCFは強い」をどう読むか
Atlassianの理解で重要なのは、EPS(会計利益)が長期でマイナスでも、FCFが厚く出ている点です。これは「儲かっていない」と即断するというより、会計上の費用(投資負担)が利益に先に出やすい一方で、事業としてのキャッシュ創出力は強い、という同居を示します。
ただし、直近1年(TTM)ではFCF成長率が+8.749%と伸びが鈍化しており、売上成長(+19.513%)に比べてキャッシュの伸びが追いついていない見え方もあります。投資の先行(AI投資、買収統合、大企業向け要件対応など)によるものなのか、事業の“勢い”が落ちたことによるものなのかは、今後は「FCFマージンが過去レンジのどこに戻るか」「売上成長が二桁で維持されるか」と合わせて読む必要があります。
成功ストーリー:Atlassianが勝ってきた理由(本質部分)
Atlassianの勝ち筋は、「チームで進める複雑な仕事」を、タスク・ナレッジ・運用(問い合わせ)の3点セットで“仕事の型”に落とし込み、組織に定着させることです。
- 不可欠性(Essentiality):開発・IT運用・プロジェクト推進は止まると損失が大きく、使われる仕組みが準インフラになりやすい。
- 置き換えにくさ(Irreplaceability):チケット運用、権限設計、ワークフロー、ナレッジ蓄積としてプロセスに組み込まれるため、移行が“製品乗り換え”ではなく“業務の再設計”になりやすい。
- 産業基盤(Backbone):記録・承認・追跡という標準フローを提供し、他ツールや拡張機能を含むエコシステムの中心になりやすい。
そしてAI時代には、「検索・要約・作成」が一般化するほど、土台(データと権限)を握る側が強くなる構造があります。AtlassianがRovoのような横断AIを中核スタックに結びつけるのは、この構造に合わせて「AIが参照する側」に寄っていく動きと読めます。
ストーリーの継続性:最近の動きは成功パターンと整合しているか
直近1〜2年での変化は、「共同作業ツール」から“AI込みの仕事基盤”へ寄せることです。これは、もともとの成功ストーリー(仕事の記録・権限・ワークフローを正本化する)と、方向性としては整合します。
- AIが主語化:Rovoを広い顧客層に展開し、権限・管理・データ保護など信頼性を前面に出している。
- 効果測定への踏み込み:DXの取り込みにより、AI投資の成果を測り、導入→運用→改善まで握りにいく文脈に寄る。
- 仕事の入口(ブラウザ)への拡張:Dia/Arcの取り込みで、アプリ内だけでなく入口側で文脈を握ろうとする。
一方で数字との整合としては、売上とキャッシュ創出は伸びているものの、利益側は安定していません。したがって、ナラティブは「成長がずっと加速する」よりも「AI化で価値を再定義し、単価・継続・横展開を強める」方向に寄っている、と整理するのが自然です。
見えにくい脆さ(Invisible Fragility):いきなり崩れないが、じわじわ効く監視点
ここでは断定ではなく、強そうに見える企業に潜みやすい“じわじわ効く弱さ”を整理します。
- 価格改定が「更新=再評価」を増やす:クラウド側(2025年10月15日)とデータセンター側(2025年2月11日)の価格改定は、社内説明負担を上げ、比較検討が走りやすい。値上げは収益性に寄与し得る一方、定着が弱い組織ほど離反圧力になり得る。
- AI価値設計が「使いこなし格差」を生む:Rovoは権限・データ整備・運用ルールが弱いと効果が出にくく、解約というより「上位化・横展開の鈍化」として効くリスクがある。
- 組織文化・変革疲れが速度に波及:AI・買収・新領域(ブラウザ)を同時に進める局面で、経営体制の変化や社内緊張、レイオフの伝わり方を巡る批判が、実行密度の低下として出る可能性は監視対象。
- 「粗利は強いが利益が残りにくい」構造が続く:AI投資・買収統合・大企業向け要件対応が重なると費用が先行し、成長が減速すると利益回復が後ろ倒しになりやすい。
- 業界構造の圧力(統合プラットフォーム化):点在ツールが統合されるほど、Atlassianは“面”で勝つか、特定領域で圧倒的定番を維持する必要がある。ブラウザ領域への投資は面を取りにいく手だが、競争も激しく投資回収難度は上がり得る。
競争環境:単機能の勝負ではなく「業務基盤(面)」の取り合い
Atlassianがいる市場は、タスク管理/開発管理、社内ナレッジ、IT運用・問い合わせといった「仕事を進める道具」を横断して束ねる領域です。ここは単一カテゴリ競争ではなく、同じ予算を複数の基盤が取り合う“多重競争”になりやすいのが特徴です。
主要競合プレイヤー(カテゴリ横断で変わる)
- Microsoft:Teams/Planner/Project/Loopに加えCopilotで、標準配布力が強い。Confluenceや周辺領域に圧力となり得る。
- ServiceNow:ITSM/ITOMの代表格で、AIエージェント化(自律化)も押し出す。JSM領域の競合。
- Salesforce(Slack):コミュニケーションの入口を持ち、通知・承認・会話を軸に業務フローを組み替え得る。
- GitHub / GitLab:開発プラットフォーム側。AIコーディング普及で開発フローの中心がどこに集約されるかが論点。
- Asana / monday.com:Work Management。導入容易性で選ばれやすい一方、開発・運用の“型”の深さでは戦い方が分かれる。
- Notion:ドキュメント+データベース型ワークスペースでConfluence領域の代替圧力になり得る。
- Zendesk:外部顧客向けサポート基盤。JSMの拡張方向次第で競争が強まる。
領域別の争点(どこが「正本」を握るか)
- 開発・プロジェクト管理(Jira):課題→実装→リリースの“正本”をどこが保持するか。AI普及で履歴・権限・承認の統制がどこに残るかが重要。
- 社内ナレッジ(Confluence):文書が「読む/書く」から「AIが参照するデータ層」へ変わる中で、権限と整理の設計が勝敗を左右。
- IT運用・問い合わせ(JSM):監査・統制・資産管理・自動化の深さ。AIエージェント化が進むと“自律実行”の基盤競争になる。
- 横断検索・AI(Rovo):AIの賢さより、企業データに安全に接続し、許可・監査の中で動けるかが争点。
顧客の評価点(Top3)と不満点(Top3)
プロダクトが「基盤」になる企業ほど、良い点と難しい点が表裏一体になります。
- 評価されやすい点
- 仕事が回る形(ワークフロー化)を作り、「属人的に頑張る」から「仕組みで回す」へ移せる。
- チーム間の見える化(透明性)が高まり、関係者が多いほど価値が出る。
- ナレッジが資産化しやすく、AIが入ると「探す→要約→次の作業」の短縮期待が乗る。
- 不満になりやすい点
- 運用設計が難しく、導入しても“型作り”が必要。
- 大規模運用ほど管理とコストの説明が必要で、価格改定が続くと社内説明コストが増えやすい。
- AI機能は使い方次第で、権限・データ整備・運用ルールが弱いと期待ほどの効果が出にくい。
モート(競争優位)と耐久性:鍵は「企業運用の複雑さを吸収する仕組み」
Atlassianのモートは、単機能の優劣よりも「企業運用の複雑さ(権限・監査・統制・ワークフロー)を吸収し、記録が積み上がる」点に宿りやすいと整理できます。
- スイッチングコスト:乗り換えコストの中心はデータ移行ではなく“業務の再設計”。課題タイプ、権限、承認、通知、教育まで再構築になりやすい。
- エコシステム(連携資産):マーケットプレイス、テンプレ、連携が蓄積するほど参入障壁として働く一方、巨大プラットフォームの配布力で上書きされるリスクもある。
- 企業要件対応:監査ログや管理者統制の整備が、特に大規模導入で差別化点になり得る。
耐久性が増す条件は、企業内でJira/Confluence/JSMが「正本」として定着し、セット化が進み、AIが横断して実務の手戻り削減に寄与することです。逆に耐久性が揺らぐ条件は、価格・プラン変更が更新時の再評価を増やすこと、入口を握る統合プラットフォームが“十分な代替”を提供すること、AI価値が運用成熟度に依存して成果のばらつきが拡張鈍化として現れることです。
AI時代の構造的位置:追い風にも逆風にもなり得るが、「参照される業務システム側」へ寄せている
AI時代に重要になるのは「AIが賢いか」だけではなく、「AIが参照して実行できる業務データ・権限・監査を誰が握るか」です。Atlassianはここで、置き換えられる側ではなく“参照される業務基盤側”に寄せる動きが目立ちます。
AI時代に効く強み(構造)
- 間接的ネットワーク効果:ユーザー数の自己増殖ではなく、企業内で標準化されるほどテンプレ・権限設計・連携資産が増え、離脱が難化しやすい。
- データ優位性:タスク、仕様、議事録、障害対応、承認履歴など“作業文脈データ”が継続的に蓄積され、AIの前提となる文脈・権限・履歴が集まりやすい。
- AI統合度:検索・チャット・エージェントがタスク・文書・運用の上に常時乗る設計へ寄り、Rovo Devは開発ライフサイクル全体の摩擦低減を狙う位置づけが明確。
- ミッションクリティカル性:止まると実務が詰まりやすい領域に入り込み、AI普及後も土台需要が消えにくい側にある。
- 参入障壁:企業要件(権限・監査・データ管理)を満たしつつ、横断AIを運用可能な形に落とし込む難度が高い。監査ログ可視化やMCP経由アクセスの監視・統制整備は耐久性補強になり得る。
AIがもたらす代替リスク(どこから負ける可能性があるか)
中心的リスクは「タスク管理やWikiがAIで不要になる」よりも、オフィススイート、開発基盤、チャット基盤など入口プラットフォームがAIを内蔵し、仕事の入口を握って“周辺機能”として吸収する圧力です。
これに対しAtlassianは、外部AIクライアントからJira/Confluenceへ安全に接続できるコネクタや、接続監査・権限制御の整備を進め、「中抜きされる側」ではなく「AIが参照・実行する業務システム側」に寄せる戦略を補強しています。
リーダーシップと企業文化:プロダクト主導で「業務の型」を作る強さと、変化局面の摩擦
ビジョンの一貫性:共同作業の基盤を作り、AIを中核に寄せる
Atlassianの中心軸は「チームの仕事を前に進める共通基盤を作る」という一貫したビジョンです。タスク・ナレッジ・運用を束ね、AI(Rovo)で「探す・まとめる・次の行動」を短縮する方向に寄せています。
直近ではAI領域の重要度を明確に引き上げる動き(AI責任者級ポジションの設置・強化など)が見え、AIを周辺機能ではなく中核として扱う姿勢が強まっています。対外コミュニケーションでも、エンタープライズ要件(統制・信頼性)とAI統合をセットで語る傾向が示されています。
人物像・価値観・優先順位・コミュニケーション(4軸)
- 人物像:強いプロダクト志向で「働き方の基盤」をプロダクトで更新することにコミット。近年はAI・買収・新領域を同時に進める局面。
- 価値観:利便性だけでなく統制(権限・監査・運用可能性)を重視。エコシステム(マーケットプレイスやパートナー)も価値の一部として扱う。
- 優先順位:クラウド移行(特に大企業)、製品横断(セット化)、AIの中核化。
- コミュニケーション:AIを成長テーマとして語りつつ、企業向け信頼性・統制をセットで語る。一方で共同創業者間の関係性を巡る報道があり、受け止め方次第で一体感に影響し得る点は変化点として監視対象。
文化として現れやすい形(強みと摩擦)
- プロダクト主導で「仕事の型」を作る文化:一方でユーザー側に運用設計を求めるため導入格差が出やすい。
- エンタープライズ要件を前提にする文化:監査ログ強化や管理体験の更新が継続し、企業運用の摩擦を減らす方向に投資。
- エコシステム込みで面で戦う文化:パートナー共存を重視する意思決定(収益配分変更のタイムライン調整など)も示唆される。
長期投資家との相性(文化・ガバナンス観点)
売上成長とキャッシュ創出が続く一方で利益の安定が未完成という整理からすると、長期投資家にとっては「中長期で完成度を見に行く」タイプになりやすい銘柄です。
注意点として、CFO交代予定など経営陣の移行イベントが控えていること、共同創業者間の関係性を巡る報道が文化摩擦の可能性を示すことは、プロダクト速度や人材の流出入に間接的に影響し得るため、継続監視が合理的です(会社側は不一致が理由ではない旨を開示)。
配当・資本配分:配当銘柄ではなく再投資色が強い
直近TTMベースの配当利回り・1株配当・配当性向は確認に必要なデータが十分でなく、少なくとも「配当を投資判断の中心に置くタイプ」の銘柄ではありません。また連続配当年数は短い(2年)ため、配当を主目的とする投資家にとっては重要度が高いテーマになりにくいです。
株主還元という観点では、配当よりも、プロダクト拡張・買収など事業成長に向けた再投資やその他の資本配分が主テーマになりやすい構造です。
今後10年の競争シナリオ(楽観・中立・悲観)
楽観:AI時代の「業務の正本」ポジションが強化
AIが仕事を実行するほど、タスク・ナレッジ・運用ログの正本が重要になり、Atlassianがそのレイヤーに残る。競争単位が単品からスタック(面)になり、置き換え判断が重くなる。
中立:カテゴリごとに勝敗が分かれ共存が続く
開発管理は維持しつつ、ドキュメントはオフィススイートや新興ワークスペースと競合。IT運用は大企業ではServiceNow、中堅ではJSMなど棲み分け。AIは運用成熟度で成果がばらつき、顧客ごとの差が残る。
悲観:入口プラットフォームが統合し周辺化
MicrosoftやServiceNow等が入口(オフィス/チャット/IT運用)からAI込みで業務フローを統合し、Atlassianが一部領域で“十分な代替”として置き換えられやすくなる。特に非エンジニア領域のタスク・ナレッジが別基盤に移り、横展開(セット化)が弱まる。
投資家がモニタリングすべきKPI(「数字があるか」より変数として重要なもの)
開示の形式に依存せず、競争環境と事業の質を見るなら、以下の変数が重要です。
- セット導入の進み方:単品から複数製品利用へ広がっているか(社内横展開の深さ)。
- 大企業導入での統制要件:権限・監査・データ管理・管理者機能が意思決定要因として強まっているか。
- AIの実務定着度:検索・要約止まりか、次の行動(作成・更新・自動化)まで入り込むか。成果が運用成熟度に依存しすぎていないか。
- 更新タイミングの摩擦:価格・プラン変更が比較検討のトリガーになっていないか、拡張の鈍化として現れていないか。
- 入口側の変化:Teams/Slack/ブラウザなど入口での統合が進むと、どの基盤が正本化するかが変わる。
- 投資の統合度:AI・買収統合・新領域が分散ではなく統合として効いているか(運用可能性とプロダクト速度に表れているか)。
Two-minute Drill:長期投資でTEAMを見るための骨格
- Atlassianは「共同作業ツールの会社」というより、タスク・文書・運用ログを企業の中で正本化し、仕事の型として定着させる“業務基盤”の会社として理解すると全体像がつながる。
- 長期データでは売上(5年CAGR +26.4%)とFCF(5年CAGR +21.3%)が力強い一方、EPSとROEはマイナスが残り、Fast Grower単独ではなく「成長×利益未確立」のハイブリッド型になる。
- 足元TTMでは売上+19.513%、FCF+8.749%とプラス成長は維持するが、長期平均比では減速し、EPSは-53.359%と悪化しているため、型は維持しつつも利益面の進展は弱い局面に見える。
- AI時代の強みは、仕事の文脈データと権限・監査を蓄積できる点で、Rovoや外部AI接続の整備は「AIが参照・実行する業務システム側」へ寄せる動きとして読める。
- 見えにくい脆さは、価格改定による更新時の再評価増、AIの使いこなし格差による拡張鈍化、AI・買収・新領域の同時進行が組織と費用に与える摩擦、統合プラットフォーム化による周辺化圧力にある。
AIと一緒に深掘りするための質問例
- Atlassianは直近の価格改定によって「解約」ではなく「席数増・上位プラン化・製品追加」が鈍っていないかを、どの指標や開示のどこから推定できるか?
- Rovoの価値が出やすい顧客の共通条件を、権限設計・データ整備・運用ルール・部門横断の成熟度の観点で仮説化すると何になるか?
- DX(開発生産性計測)とブラウザ(Dia)が、Jira/Confluence/JSMの「正本」ポジションを増幅しているのか、それとも投資が分散しているのかを判断するチェックリストは何か?
- Microsoft 365 CopilotやServiceNowのAIエージェント化が進むとき、Atlassianのどの領域(開発管理・ナレッジ・IT運用・横断AI)が最も影響を受けやすいか、理由とともに整理できるか?
- TTMでEPSが悪化している一方でFCFが厚い状態を、会計上の費用先行と事業の勢いのどちらとして解釈すべきか、追加で確認すべき材料は何か?
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