この記事の要点(1分で読める版)
- RPMは防水・シーリング・保護塗装など「建物と設備を長持ちさせる材料」をプロ現場中心に販売し、失敗回避価値(仕様・保証・施工支援・供給安定)で選ばれる企業。
- 主要な収益源は建設向けと工業/インフラ向けが大きく、消費者向けは景気やチャネル要因で揺れやすいがブランドと価格施策・買収で下支えし得る構造。
- 長期では売上CAGRが過去10年+4.8%と中程度でもEPSが+11.7%と上回り、FY最新ROE23.9%を維持するStalwart寄りの積み上げ型が基本ストーリー。
- 主なリスクは効率化・統合の副作用で現場接点が薄まり条件競争に寄ること、利益とFCFが噛み合わない局面が続くこと、買収と借入で利息など固定費が増えること、消費者向けチャネル事故が起きること。
- 特に注視すべき変数は価格・ミックスと値引き頻度、供給安定(欠品・納期)、現場支援の厚み(仕様採用・クレーム/保証の兆候)、運転資本の動き(利益とキャッシュの連動性)、Net Debt/EBITDAの方向性。
※ 本レポートは 2026-01-14 時点のデータに基づいて作成されています。
RPMは何をしている会社か:建物と設備の“ばんそうこう+よろい”を売る
RPMは、建物や設備を「長持ちさせるための材料」をつくって売る会社です。雨漏りを防ぐシーリング材、屋根や床を守る塗料・コーティング、工場床を強くする樹脂、補修材や接着材など、「表面を守る・すき間を埋める・傷みを直す」系のプロ向け材料が中心です。
ポイントは、需要の出発点が“流行”ではなく「劣化は止められない」という物理の必然であることです。新築が鈍くても、雨漏り・腐食・ひび割れ・剥離といったトラブルは発生し続け、修理や保全は“先延ばしできてもゼロにはできない”需要になりやすい。RPMはそこに、失敗しにくい材料と使い方の支援をセットで提供し、繰り返し注文されやすい関係を作ります。
顧客は誰か:個人より「プロ現場」が主戦場
RPMの顧客は、個人よりも企業・プロの工事会社が中心で、そこにDIY層が加わる構図です。
- 建設会社・工務店・職人(屋根、防水、床、外壁など)
- ビルや工場のオーナー、施設管理会社(メンテ担当)
- 製造業の工場(設備・床・配管などの保護)
- 小売店・ホームセンター経由の一般消費者(DIY補修・塗装)
どう儲けるか:材料販売×継続発注、利益は「値上げ力・ミックス・効率」で決まる
収益モデルは「材料を売って利益を得る」というシンプルなものです。現場で繰り返し使われるため、同じ顧客から継続的に注文が入りやすい一方、利益は原材料コスト・工場効率・値上げの通り方・高付加価値品比率(ミックス)で大きく変わります。プロ向けでは、仕様提案や施工支援が“現場で失敗しない”価値として効き、単なる材料販売以上に選ばれやすさに繋がります。
事業の柱:建設・工業/インフラ・消費者(3セグメント)
RPMは2025年に組織を「Construction Products / Performance Coatings / Consumer」の3セグメントへ整理し、旧Specialty Productsの中身を合流させて、建設・工業・消費者という軸で分かりやすく運営し直しています。狙いは、横串の協業(クロスセル)と運営効率の向上です。
Construction Products Group(建設向け:とても大きい柱)
防水材、屋根材、シーリング材など、建物外側・屋上・窓まわり・すき間を守る領域です。新築だけでなく修理・改修(直して長持ち)の比率が大きく、景気の波を受けつつもメンテ需要が下支えになりやすいのが強みです。
Performance Coatings Group(工業・インフラ向け:大きい柱)
工場・橋・船・タンクなど過酷環境で使う防食・保護コーティングが中心です。「壊れたら困るもの」を守る用途は、価格だけでは選ばれにくく、品質・信頼・実績が効きやすいジャンルです。
Consumer Group(一般消費者向け:中くらい〜景気で揺れる柱)
家庭の補修・塗装などDIY用途や、家庭向けブランド製品の領域です。景気や住宅関連の空気に左右されやすい一方、ブランドや店頭の強さがあると粘りが出ます。直近の決算説明では、売上面では買収や価格施策が下支えした一方、需要の鈍さが利益面での逆風になり得ることが示唆されています。
成長ドライバー:派手な成長ではなく「需要の粘り×稼ぎ方の改善」
- 修理・改修(リノベ、保全)需要:建物・設備の老朽化は継続しやすく、需要が途切れにくい
- 省エネ・耐久性ニーズ:断熱、気密、防水、長寿命化など“採用理由が作りやすい”材料が増える
- 価格・製品ミックス:高付加価値品比率や値上げの通り方が利益を左右する
- 運営の効率化:MAP 2025という改善プログラムで工場・拠点・業務の整理を進め、2025年5月末に一段落しつつも、2026年度にかけて残プロジェクト完了を想定
将来の柱になり得る「地味だが効く」取り組み
1)データ統合・業務標準化(ERP統合など):AI時代の土台づくり
多数ある業務システムを整理し、セグメントごとに基盤を寄せる動き(ERP統合など)を進めています。派手な新製品ではありませんが、受注や在庫の見える化、工場・物流のムダ削減、意思決定の高速化に繋がり得ます。AI時代の観点でも、データがまとまるほど需要予測・価格最適化・在庫最適化を高度化しやすく、利益体質の下支えになりやすい領域です。
2)“売り方”の高度化(価格規律・ミックス改善)
MAPの狙いは「ただ売る」ではなく、「どの商品を、どの顧客に、どんな条件で売るか」を改善して利益を増やすことにあります。材料ビジネスでは地味ですが、長期の利益の柱になり得る取り組みです。
3)3セグメント再編によるクロスセル(組み合わせ提案)
「防水+塗装+補修」などのセット提案をしやすくし、営業効率を上げる余地があります。逆に言うと、再編が“現場の摩擦”を増やすと、狙いと逆に顧客接点の品質が落ちるリスクも同時に抱えます。
長期の数字が示す「企業の型」:Stalwart(安定成長)寄り
RPMはリンチの6分類でいえば、典型的な急成長ではなく、補修・保全需要を土台に利益を積み上げる安定成長(Stalwart)寄りの性質が強い企業です。自動判定ではどれにも強制的に該当していないものの、実態としては「売上は中程度、利益(EPS)はそれ以上、ROEは高い」という組み合わせが長期で見えます。
売上は中程度、EPSはそれ以上に伸びてきた
- EPSの年平均成長率:過去5年 +18.1%、過去10年 +11.7%(FY 2016の2.59→FY 2025の5.37)
- 売上の年平均成長率:過去5年 +6.0%、過去10年 +4.8%(FY 2016の約48億ドル→FY 2025の約74億ドル)
売上以上にEPSが伸びているため、「数量で伸びる」というより、価格・ミックスや効率改善、希薄化の抑制などが効いてきた構図が読み取れます。
収益性:高ROEを維持
- ROE(FY最新):23.9%
- 営業利益率(FY 2025):12.3%
- 粗利率(FY 2025):41.4%
マージンは年度によって上下しつつも、長期では一定以上の収益性を維持しているタイプです。
FCFは増加基調だが、年次の振れが大きい
- FCFの年平均成長率:過去5年 +6.0%、過去10年 +8.2%
- FYのFCFはFY 2022がマイナス、FY 2024が大きなプラス、FY 2025は5.38億ドルと振れる
RPMは「利益が安定=キャッシュも滑らか」とは限らず、在庫・投資タイミングなどがFCFに波として出やすい企業像です。
Lynch 6分類の結論:Stalwart寄り(根拠は“中程度売上成長+高ROE+利益成長”)
判定はStalwart寄りです(自動判定のフラグは未点灯)。根拠として、売上成長率(過去10年)+4.8%という積み上げ型、EPS成長率(過去10年)+11.7%という利益の伸び、ROE(FY最新)23.9%という資本効率の高さが揃っています。
- Fast Growerに必要な売上の高成長(例:年率15%級)は満たしにくい
- Cyclicalのような周期的な赤字⇄黒字の反転が中心的特徴ではない(FY 2006に赤字があるが、以降は長期で黒字基調)
- Asset Playのような低PBRではなく、PBR(FY最新)は5.6倍
- Slow Growerのような極端な高配当性向ではなく、配当性向(TTM)は39.7%
短期(TTM/直近2年)で「型」は維持されているか:結論は“維持だが減速”
長期ではStalwart寄りでも、短期で崩れかけていないかは別問題です。ここは投資判断に直結するため、売上・EPS・マージン・FCFを時間軸を分けて確認します。
TTMの勢い:売上・EPSは小幅プラス、FCFはマイナス
- EPS成長率(TTM YoY):+2.57%(EPS TTM 5.216)
- 売上成長率(TTM YoY):+3.23%(売上 TTM 75.82億ドル)
- FCF成長率(TTM YoY):-11.23%(FCF TTM 5.83億ドル)
会計上の利益と売上は「増えてはいるが勢いは強くない」。一方でFCFが前年割れで、短期モメンタムの弱さが最も出ています。
“減速(Decelerating)”判定の根拠:過去5年平均に届かない
- EPS:過去5年平均 +18.07% に対し、直近TTM +2.57%
- 売上:過去5年平均 +6.01% に対し、直近TTM +3.23%
- FCF:過去5年平均 +6.00% に対し、直近TTM -11.23%
このため、成長モメンタムはDecelerating(減速)に分類されます。
直近2年(8四半期)の方向性:利益は上向き、FCFは下向き
- 2年CAGR:EPS +9.41%、売上 +1.61%、純利益 +9.19%、FCF -25.22%
- トレンド相関:EPS +0.92、売上 +0.77、純利益 +0.91、FCF -0.91
ここでの重要論点は「利益が伸びてもキャッシュが伸びない」ズレです。なお、TTMとFYの数値が異なる場面がある場合は、期間の違いによる見え方の差として扱うべきで、矛盾と断定しません。
マージンの足元:水準としては保たれている
直近(最新四半期)の営業利益率は約12.08%で、極端に低い水準ではありません。短期の最大の論点は「利益率の急崩れ」よりも「成長率の鈍化」と「FCFの減速」にあります。
財務健全性(倒産リスクの整理):利払い余力は高め、キャッシュは厚くない
RPMは負債ゼロの会社ではありませんが、現時点の利払い余力は高めです。一方、キャッシュクッションが極端に厚いタイプではないため、FCFが弱い局面では“キャッシュの読み”が重要になります。
- Debt/Equity(FY最新):1.03倍
- Net Debt / EBITDA(FY最新):2.46倍
- インタレスト・カバレッジ(FY最新):9.21倍
- キャッシュ比率(FY最新):20.59%
文脈整理としては、倒産リスクは直ちに高いとまでは言い切れない一方、キャッシュが潤沢で何でも吸収できる状態でもないため、需要が弱い局面や統合コスト増の局面では注意が必要、というバランスです。
配当:長い増配の履歴と「中庸な負担感」
RPMにとって配当は、形だけではなく長期にわたって継続してきた株主還元の柱です。
水準と成長
- 直近TTMの1株配当:2.07175ドル
- 直近TTMの配当利回り:算出できません(データが十分でないため)
- 参考:過去5年平均利回り 2.29%、過去10年平均利回り 2.95%
- 配当成長率CAGR:過去5年 6.96%、過去10年 7.04%
- 直近TTMの増配率:9.39%(単年での上振れであり継続性は断定しない)
安全性(持続可能性):利益・FCFの範囲では一定の余力
- 配当性向(利益ベース、TTM):39.72%(過去5年平均40.31%と同程度、過去10年平均50.69%より低め)
- 配当/FCF(TTM):45.42%
- FCFでの配当カバー倍率(TTM):2.20倍(直近TTMでは配当をキャッシュで賄えている)
また、負債構造としてはNet Debt/EBITDA 2.46倍、利払い余力9.21倍という前提があり、配当が直ちに資金繰りを圧迫している形とは言い切れません。社内スコアでは配当の安全性は中程度に分類されています。
トラックレコード:継続配当36年、連続増配30年
- 配当を出してきた年数:36年
- 連続増配年数:30年
- 最後の減配(またはカット):1995年
短期の配当方針ではなく、長期で積み上げてきた履歴がはっきりしている点が特徴です。
資本配分の輪郭(見える範囲)
TTMベースで配当性向が39.72%であるため、利益の過半は配当以外(投資、負債返済、買収、自己株取得など)に使える余地が残ります。なお、このデータには自己株取得額がないため、自社株買いの有無や規模は断定できません。
同業比較について:このデータでは定量比較ができない
同業平均との差分・順位データがないため、「同業で上位/中位」などの定量比較はできません。その代わり構造として、配当性向約40%は配当を重視しつつ再投資余力を残す設計として理解しやすく、直近TTMでFCFカバー2倍超は無理をしている形とは言い切れない、という位置づけになります。
投資家タイプとの相性(Investor Fit)
- インカム投資家:直近TTM利回りは算出できないが、36年配当・30年増配という履歴と、中庸な配当性向は判断材料になり得る
- トータルリターン重視:配当が利益・キャッシュの大半を固定的に縛る設計ではなく、成長投資などとのバランスを取りやすい余地がある
評価水準の現在地(自社ヒストリカルの中で):PERは落ち着き、PEGは突出
ここでは市場や同業比較ではなく、RPM自身の過去レンジに対して「今がどこか」を整理します。時間軸は、過去5年(主軸)、過去10年(補助)、直近2年(方向性のみ)です。
PEG:過去5年・10年の通常レンジを大きく上回る
- PEG(現時点):8.34倍
PEGは過去5年・10年の通常レンジを大きく上回る位置です。背景として、直近のEPS成長率(TTM YoY)が+2.57%と小さく、PEGの定義上その結果として数値が大きく出ている、という関係があります(良し悪しはここでは述べません)。直近2年の方向性は上昇です。
PER:過去5年では下限近辺、過去10年ではレンジ内
- PER(TTM、株価=本レポート日):21.38倍
PERは過去5年の通常レンジ下限近辺(わずかに下回る位置)、過去10年では通常レンジ内で真ん中よりやや控えめです。直近2年の方向性は横ばいです。
フリーキャッシュフロー利回り:レンジ内
- FCF利回り(現時点):4.08%
過去5年では通常レンジ内でやや高めの利回り側、過去10年では通常レンジ内だが中央値より低め(利回りとして控えめ側)です。直近2年の方向性は低下です。
ROE:過去5年・10年とも通常レンジ内
- ROE(FY最新):23.87%
ROEは過去5年・10年とも通常レンジ内で、極端に例外的な水準ではありません。直近2年の方向性は低下です。
FCFマージン:通常レンジ内(直近2年は低下方向)
- FCFマージン(TTM):7.69%
過去5年では通常レンジの中ほど、過去10年では通常レンジの上側に近い位置です。一方、直近2年の方向性は低下です。
Net Debt / EBITDA:逆指標としては「レンジ内の下側」だが直近2年は上昇
- Net Debt / EBITDA(FY):2.46倍
Net Debt / EBITDAは逆指標で、数値が小さいほど(マイナスが深いほど)現金が厚く財務余力が大きい状態、数値が大きいほどレバレッジ圧力が大きい状態を示します。RPMは過去5年・10年とも通常レンジ内の下側(数値が小さい側)にありますが、直近2年の方向性は上昇です。これは、あくまで同社ヒストリカル内での位置と方向性の整理であり、投資判断の断定ではありません。
キャッシュフローの質:利益(EPS)とFCFの“ズレ”をどう読むか
RPMは長期でEPSを伸ばしてきましたが、FCFは年次で振れやすく、直近TTMでもFCFが前年割れです。ここで重要なのは、「悪化」と決めつけることではなく、利益が増えてもキャッシュが伸びない局面が出る構造を投資家が織り込めるか、という点です。
- FYではFCFマージンがFY 2024の12.4%からFY 2025の7.3%へ低下
- TTMではFCFマージン7.69%で、過去レンジ内に位置する
FYとTTMで見え方が異なる場合は、期間の違いによる見え方の差です。短期のズレの内訳(運転資本、投資タイミング、統合の摩擦など)はこの資料だけでは断定できないため、「ズレが起きている事実」として、継続性をモニタリングする論点になります。
RPMが勝ってきた理由(成功ストーリー):失敗回避価値を“運用込み”で提供する
RPMの勝ち筋は、材料そのものの化学性能だけではなく、「仕様」「施工性」「失敗時の損失の大きさ」が絡むプロ現場で、再現性・実績・供給安定・提案を束ねて提供できる点にあります。防水・屋根・床・工業用保護などは施工不良が後工程や停止損失に直結しやすく、単純に最安品へ置き換えられにくい土壌があります。
顧客が評価する点(Top3)
- 信頼性:失敗しにくく、規格に乗せやすく、再発が少ない(リスク低減価値)
- 作業性と仕様提案:選定から施工までの支援があり、仕上がりが安定しやすい
- 供給力:補修は突発が多く、必要なタイミングで手に入ることが価値になる
顧客が不満に感じる点(Top3)
- 値上げ体感:原材料・包装・物流の変動局面でコスト負担感が出やすい
- 品質の一貫性:ロット差・施工条件差による再現性ストレスがクレーム化しやすい
- サポートの濃淡:担当・拠点によるばらつきが不満として表れやすい
ストーリーの継続性:いまの施策は「成功ストーリー」と整合しているか
最近の変化は「成長の勢い」よりも稼ぎ方の調整に重心が寄っている点です。改善プログラム(MAP 2025)は節目を迎えつつも、未完了プロジェクトの完了に伴う費用計上が続くことが示されており、“完全に終わった話”ではありません。また、需要が鈍い環境を前提に、販管費中心の追加最適化で年次ベースの削減効果を狙う姿勢も示されています。
これらは「売上が強くなくても利益を作りにいく」動きとして、RPMの従来ストーリー(補修・保全需要+価格/ミックス+運営効率)と整合しやすい一方、実行局面では副作用(現場力低下、顧客対応弱体化)が出ると逆回転し得ます。
見えにくい脆さ(Invisible Fragility):強そうに見える会社ほど点検したい8項目
ここでは「今すでに危ない」と断定せず、構造上“見えにくく積み上がりやすい弱さ”を整理します。
- 顧客・チャネル偏り:小売顧客の破綻に伴う貸倒費用が言及されており、流通側イベントが利益を揺らす可能性が残る
- 価格競争の静かな浸食:需要が鈍い局面では、売上減より値引き・条件悪化が利益を削りやすい
- 差別化の喪失:再現性・現場支援・仕様採用の実績が薄まると、数年遅れて採用が外れるリスクがある
- サプライチェーン依存:原材料(樹脂・溶剤・顔料)、包装、物流の供給・価格変動が摩擦として効く
- 組織文化の劣化:効率化・統合の継続で“現場の熱量”が落ちると顧客接点の品質に波及し得る
- 高ROEとキャッシュのズレ:利益の伸びとFCFの伸びが噛み合わない局面が常態化するとストーリーが弱る
- 財務負担の積み上がり:買収関連の借入で利息費用の増加要因が挙げられており、固定費が静かに増える形に注意
- 業界構造の変化:施工人手不足や規格化が進むと、扱いやすさ需要が増える一方、差別化が難しくなる側面もある
競争環境:材料単品ではなく「仕様・保証・施工支援・供給安定」のシステム勝負
この市場は成熟していて作れる会社も多い一方、プロ施工の現場では「仕様」「保証」「失敗コスト」「供給安定」「現場支援」の比重が大きく、単純な最安品置換になりにくい領域も多い。競争は設計・発注段階(仕様採用)から、施工段階(施工ネットワーク・支援)、運用段階(供給とアフター)まで含む“システム勝負”になりやすいのが特徴です。
主要競合(領域別に顔ぶれが変わる)
- Sika(防水・シーリング・接着・床など建設化学の大手)
- Carlisle(商業用屋根・防水膜など)
- Holcim(屋根・外皮のシステム領域で競合になり得る)
- Sherwin-Williams(塗料の巨大プレイヤー)
- PPG(産業・保護塗装)
- AkzoNobel(保護塗装・工業系)
- Henkel(接着・シーリング)
補足として、RPMの建設系中核であるTremco CPGは、屋根・外装・防水を「より一体の建物外皮ソリューション」へ寄せる買収を続けており、“材料単品”から“システム+施工性”へ競争軸を変える動きとして重要です。
領域別の競争論点(3セグメントに対応)
- 建設:仕様採用、システム保証、施工標準化、施工店ネットワーク、供給安定
- 工業・インフラ:認証・安全要件・実績、材料+施工条件の最適化支援、保全計画への入り込み
- 消費者:店頭棚・ECの可視性、ブランド、棚割・販促、プライベートブランドとの条件競争
投資家がモニタリングすべき競争KPI(先行指標)
- 仕様採用・システム採用比率(単品からの移行が進むか)
- 主要カテゴリでの値引き頻度(条件競争への傾き)
- 供給安定(欠品、納期遅延などの兆候)
- 品質再現性(クレーム、やり直し、保証対応の兆候)
- 現場支援の厚み(教育・認定、販売店/施工店の満足の兆候)
- 建設系での外皮統合提案の進捗(買収・提携の継続)
- 競合大手(例:Sika)の再編・効率化が主要地域で攻勢になっていないか
モート(堀)の正体と耐久性:単一要素ではなく「束」で守る
RPMのモートは、単一の技術独占というより、複合要素の束にあります。
- 失敗回避価値が大きい領域での実績(仕様採用・保証が絡む)
- 用途横断の製品群(防水+シーリング+外装+床など)で提案範囲が広い
- 供給と現場支援(仕様提案・施工支援)を一体で回す運用
一方、モートを薄くし得る最大の論点は「現場接点の劣化」です。効率化の副作用で提案・サポートの濃度が落ちると、材料が比較されやすくなり、代替や条件競争に引きずられやすくなります。モートの耐久性は、統合・標準化が“現場価値を強める”方向に働くか、それとも薄めるかで変わり得ます。
AI時代の構造的位置:AIで“置き換えられる側”ではなく“運営精度を上げられる側”
RPMの価値はネットワーク効果で伸びるタイプではなく、ネットワーク効果は強くありません。ただし、仕様採用や施工実績の積み上げが指名に繋がるという意味で、弱い形の累積優位は成立します。
- データ優位性:競争優位はデータそのものより配合・用途別ノウハウ・現場支援・供給安定に寄るが、ERP統合などデータ基盤整備が進むほど需要予測・価格運用・在庫最適化がやりやすくなる
- AI統合度:製品を置き換えるより、営業提案、需要予測、在庫・物流、購買、サポートなど運営の精度向上として効きやすい
- ミッションクリティカル性:防水・防食・床・シーリングは失敗時の損失が大きく、価格だけの比較になりにくい土壌がある
- 参入障壁:用途の広さ、仕様採用の履歴、施工ノウハウ、供給網、ブランド群の積み上げ
- AI代替リスク:物理材料供給の中核は直接代替されにくいが、AI普及で比較が容易になり、差別化が薄い領域ほど条件競争が強まる圧力になり得る
総括すると、RPMはAIで爆発的に成長する企業というより、AIでブレを減らし稼ぎ方を磨ける企業、という構造的位置です。
リーダーシップと文化:運営で勝つスタイルは強みにも副作用にもなる
経営ビジョンの軸:ターンキー化×効率化×買収と統合
CEOのコミュニケーションから見える主眼は、差別化されたターンキー(材料+システム)を押し出すこと、改善プログラムで運営効率を上げること、改善で生まれた余力(運転資本の改善など)を買収と統合で次の成長へ回すこと、の3点に集約されます。これは「補修・保全需要」×「価格・ミックス」×「運営効率」×「再編によるクロスセル」というストーリーと整合的です。
人物像(4軸の抽象化):コントロール可能領域に集中する実務型
- 性格傾向:外部環境より、運営効率・販管費・統合などコントロール可能領域に焦点を当てやすい
- 価値観:材料単品よりシステム/ソリューション、短期の帳尻より構造的な利益づくりを重視
- 優先順位:3セグメント化など連携が効く整理、標準化、運転資本改善、買収を「統合して伸ばす」前提で使う
- コミュニケーション:外部環境予測より、何を実行し何が利益を押し上げるかを語る実務寄り
文化への表れ:標準化が進む一方、現場接点が薄まるリスク
「運営で勝つ」「構造で利益を作る」を強く打ち出す文化は、数字責任の明確化やムダ削減に繋がり得ます。一方で、統合・合理化がやりすぎになると、現場支援や対応が薄くなって“材料が箱化”し、条件競争に寄りやすいという副作用も持ちます。統合・再編は生産性低下や離職を招き得る点もリスクとして明示されており、実行局面の副作用管理が成果を左右しやすいタイプです。
従業員レビューの一般化パターン(引用なし)
- ポジティブ:制度・安定感、職種によってはワークライフバランス
- ネガティブ:昇進・成長機会が見えにくい、マネジメント品質や文化の一貫性への不満(部門差・拠点差)、目的の明確さや評価されている感覚の不足
これは顧客側で観測される「サポート/対応の濃淡(担当・拠点によるばらつき)」とも方向性が整合します。
Two-minute Drill(長期投資家向け総括):この銘柄は何を信じ、何を監視するか
RPMを長期で評価する中心は、「劣化は止められない」という物理必然に乗った補修・保全需要の粘りと、仕様・保証・施工支援・供給安定を束ねた“失敗しにくい仕組み”で選ばれ続ける力です。長期では売上が中程度に積み上がり、EPSがそれ以上に伸び、ROEは高水準(FY最新23.9%)を維持してきました。
一方、足元(TTM)では売上+3.23%、EPS+2.57%と伸びが鈍く、FCFは-11.23%で減速しています。ストーリーが壊れたというより、成長よりも内部効率の積み増しに依存しやすい局面に寄っている、という見え方です。したがって投資家が監視すべき核心は、「効率化・統合が現場価値を削らず、むしろ供給・提案・価格運用の精度を上げられているか」と、「利益とキャッシュのズレが管理可能な範囲に収まるか」です。
KPIツリー的に見た“注目変数”(要点)
- 価格・ミックス改善(値上げの通り方、高付加価値品比率):利益率の分岐点
- 運営効率(標準化、拠点・業務整理、販管費最適化):利益の下支え
- 供給安定(欠品・納期):補修用途では採用継続に直結
- 現場支援の厚み(仕様提案・サポート品質):比較されにくさ=モートの中核
- 運転資本(在庫・売掛など):利益とFCFのズレの主要因になりやすい
- 買収と統合、利息負担:固定費化が進むと需要が弱い局面で自由度を縛り得る
- 消費者向けチャネルの揺れ:小売側イベントが損失として出るリスク
AIと一緒に深掘りするための質問例
- RPMの直近TTMで「EPSは+2.57%なのにFCFは-11.23%」となった要因を、運転資本(在庫・売掛・買掛)と設備投資/統合費用の観点で分解して説明してほしい。
- MAP 2025やERP統合による標準化が、現場支援(仕様提案・サポート品質)を弱めていないかを、開示情報から推定できる先行指標(保証対応、クレーム、欠品、納期、従業員離職など)として整理してほしい。
- Net Debt/EBITDAが「過去レンジ内の下側」にある一方で直近2年は上昇しているが、買収関連の借入や利息費用増を踏まえて、需要が弱い局面での耐久性をどう点検すべきか整理してほしい。
- RPMのモート(仕様・保証・施工支援・供給安定の束)が効きやすい用途と、逆にDIYや軽補修のように代替が効きやすい用途を、3セグメントの中でどう切り分けて見ればよいか提案してほしい。
- PEGが8.34倍と過去5年・10年レンジを大きく上回っている背景として、成長率の低下以外に何が影響し得るか(分母の扱い、利益の一時要因など)を確認するチェック項目を挙げてほしい。
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