この記事の要点(1分で読める版)
- ロッキード・マーチンは政府向けに戦闘機・ミサイル・宇宙・統合システムを供給し、納品後の整備・改修・ソフト更新まで含む長期運用で稼ぐ国防インフラ型の企業。
- 主要な収益源は航空(長期プログラム+運用)、ミサイル防空(需要増と増産)、宇宙、電子・情報(統合)で、特にミサイルは供給能力そのものが競争力になりやすい局面にある。
- 長期では売上は成長し株数も減少傾向だが、直近TTMではEPSが前年比-35.51%、FCFが前年比-29.41%と弱く、売上成長と稼ぐ力のズレが課題として表れている。
- 主なリスクは政府調達・監督強化による収益構造の変化、増産局面のサプライチェーン詰まり、複雑プログラムの遅延常態化、商用AI/ソフト企業による周辺価値の外部化、そしてキャッシュ創出力の弱さとレバレッジが同時に効く見えにくい脆さ。
- 特に注視すべき変数はPAC-3 MSEの増産が納期・品質の実績として積み上がるか、F-35の近代化・納入遅延・可用性が改善サイクルに収れんするか、FCFマージン(TTM 6.26%)が自社通常レンジへ戻るか、そして投資と配当(配当性向の上昇)を同時に成立させ続けられるか。
※ 本レポートは 2026-01-07 時点のデータに基づいて作成されています。
この会社は何をして、なぜ儲かるのか(中学生向けに)
ロッキード・マーチン(LMT)は、ひとことで言うと「国(政府)向けに、戦闘機・ミサイル・人工衛星など“安全保障の道具”を作り、長い運用まで面倒を見る会社」です。スマホや家電のように個人へ売る会社ではなく、主なお客さんはアメリカ政府(国防関係)と同盟国の政府です。
顧客は誰か:景気より“政治・安全保障”で動く
- メイン顧客:アメリカ政府(国防)、同盟国・友好国の政府
- 特徴:一度買って終わりではなく、何年・何十年も続く調達と運用の関係になりやすい
- 重視点:価格より「確実に動く」「安全」「機密を守れる」が優先されやすい
- 変動要因:景気よりも予算・方針・国際情勢(政治・安全保障)に左右されやすい
稼ぎ方:①納品 ②維持管理 ③研究開発が“束”になっている
LMTの収益モデルは大きく3つです。①戦闘機やミサイル、各種システムを「作って試験して納品する」長期プロジェクト、②納品後の点検・修理・部品交換・改良・ソフト更新などで「長く稼ぐ」運用ビジネス、③次世代技術や改良の研究開発を受託し、それが量産・運用の仕事につながる流れです。
例えるなら「高性能な車を売る会社」より、「国家レベルの消防・警察・防災の道具一式を作って、使い続けられるように整備と改良まで面倒を見る会社」に近い、という理解が掴みやすいです。
いまの主力事業:空・ミサイル・宇宙・電子/情報
LMTは単一製品の会社ではなく、「空」「ミサイル・防空」「宇宙」「電子・情報(統合)」の複数の柱で成り立っています。重要なのは、どの柱も“納品して終わり”になりにくく、運用と改修が長く続く設計になっている点です。
航空(戦闘機など):巨大プログラムと長期の運用・改修
代表例としてF-35のような戦闘機関連があり、本体製造だけでなく運用・整備・改良が長期に続くことが強みです。一方で、巨大で複雑なプログラムほど、アップグレード計画の見直しや納入遅延・部品不足など「実行の難しさ」が論点化しやすい側面もあります。
ミサイル・防空:需要増に加え“供給力そのもの”が価値になりやすい
迎撃ミサイルや関連システムは近年の安全保障環境で重要度が上がりやすい領域です。直近のアップデートとして、Patriot向けPAC-3 MSE迎撃ミサイルについて、米国防当局との枠組み合意により生産能力を数年かけて大きく引き上げていく動きが示されています(年間生産能力を約600発から約2,000発へ)。この領域では「作れる量」「増産を回し切る能力」が競争力になりやすい局面に入っています。
宇宙(衛星など):情報収集~地上運用までの“システム”
人工衛星や宇宙関連のシステム、地上側の運用などを担います。直近では米SDAが複数社に固定価格で分散発注する形も確認されており、宇宙は「勝者総取り」よりも分散調達・入れ替えが起きやすい構造へ寄る可能性があります。
電子・情報(センサー、通信、指揮統制、統合):別々の装備を“1チーム”にする
センサーや通信、指揮の仕組みは、「別々の装備を、1つのチームのように連携させる」ための中枢です。装備がネットワーク化・ソフト化するほど、統合、更新速度、運用管理の重要性が増し、LMTの価値提供の核になりやすい領域です。
将来の柱:AI・自動化・統合ソフトが“勝ち方の土台”になる
LMTは「ハードを作る会社」に見えがちですが、将来の競争力は“AI・自動化・ソフト統合”がどれだけミッション環境で実装できるかに直結しやすいです。ここは売上の短期変動よりも、長期の地力(参入障壁の作り方)を決める論点です。
AIを安全に運用する基盤(AI Factoryなど):便利さより監査可能性・堅牢性
国防用途のAIは、どのデータで学び、どう判断したかを追えること(監査可能性)や、壊れにくさ・改ざん耐性が強く求められます。LMTはAIを作って終わりではなく、「安全に運用する仕組み(エコシステム)」を前に出しています(Google Cloudとの協業もこの文脈)。
AI同士をつなぐ枠組み(STAR.OS):統合レイヤーの製品化
現場では1つのAIだけでなく複数のAIやシステムを組み合わせて動かす必要があり、LMTは異なるAI同士を連携させる枠組み(STAR.OS)を打ち出しています。ここは「統合の器」を握れるかどうかに関わり、長期の競争地図を左右し得ます。
無人機・自律・群れ運用(スウォーム):更新速度が価値になる
無人機は人が操縦するだけでなく、現場で状況を見て自律的に動く重要性が増しています。LMTは、無人機へソフトを素早く更新し能力を上げること、群れで運用する方向の取り組みを示しています。
内部インフラとしての生産能力拡張と自動化:作りたくても作れない世界での武器
防衛産業では部品・人手・設備が足りず「作りたくても作れない」が起きやすく、生産能力やサプライチェーン強化、自動化への投資がそのまま競争力になります。PAC-3 MSEの増産枠組みは、需要見通しを梃子に設備投資を進める典型例です。
長期ファンダメンタルズ:LMTの“型(成長ストーリー)”を数字で掴む
ピーター・リンチ的に重要なのは「この会社の型は何か」「その型が続いているか」です。LMTは需要が大きい業界にいますが、投資家が見るべきは“需要の話”だけでなく、“企業の稼ぐ力がどう推移しているか”です。
売上・EPS・FCFの長期推移(5年/10年)
- EPS成長率(年率):5年 +0.3%/年、10年 +7.1%/年(10年では一桁台としては高めだが、5年ではほぼ横ばいに近い)
- 売上成長率(年率):5年 +3.5%/年、10年 +5.9%/年(中期・長期で右肩上がりだが高成長ではないレンジ)
- FCF成長率(年率):5年 -1.9%/年、10年 +5.8%/年(10年では増加傾向だが、直近5年では伸び悩み)
同じ論点でも5年と10年で見え方が違うのは、期間の違いによる見え方の差です(直近の減速局面が5年側に強く影響している可能性があります)。
収益性:ROEとキャッシュ創出(マージン)の長期感触
- ROE(最新FY):84.26%
- FCFマージン(FY 2024):7.44%(過去5年中央値は9%台で、足元はそれより低い)
ROEは非常に高い数値ですが、自己資本が小さくなりやすい年度があり、ROEが高く出やすい構造が示唆されます。したがって、ROE単体で「事業が急に超高収益化した」と断定せず、キャッシュ創出やレバレッジと合わせて読むのが安全です。
1株あたり価値:株数の長期トレンド(自社株買い等の示唆)
発行株式数は長期で減少傾向です(2014年 3.224億株 → 2024年 2.392億株)。長期では株数減が1株あたり指標(EPSなど)に追い風になりやすい構造が示唆されます。
成長の源泉を1文で:売上は伸びるが、足元の利益・EPSが落ちている
売上は中期・長期で増えている一方、足元の利益・EPSが落ちているため、直近は「売上成長だけではEPSを支えきれていない」局面にあります。長期的には、株数減少(自社株買い等)と売上成長がEPSを下支えしてきた可能性が高い、というのがデータからの自然な読みです。
Lynchの6分類で見ると:Stalwart寄りだが“減速局面を含むハイブリッド”
LMTは需要の源泉が景気よりも国家予算と安全保障に寄っているため、型としては「Stalwart(安定大型)」に近い面があります。ただし、直近TTMでは利益・EPS・FCFが減速しており、純粋なStalwartの条件(稼ぐ力の安定)から外れやすい局面も含みます。よって現時点では「Stalwart寄りだが、足元は減速局面を含むハイブリッド」と捉えるのが無理がありません。
短期モメンタム:売上は伸びるが、EPSとFCFが弱い(型は維持されているか)
長期投資でも、短期(TTMや直近8四半期に近い窓)の“崩れ”は見逃せません。ここでは、長期の型が短期でも維持されているか、それともズレが大きいかを確認します。
TTMの現状:売上は小幅プラス、利益とキャッシュは大きくマイナス
- EPS(TTM):18.04、前年比 -35.51%
- 売上(TTM):733.49億ドル、前年比 +2.88%
- FCF(TTM):45.93億ドル、前年比 -29.41%
- FCFマージン(TTM):6.26%
結論としてモメンタムは減速(Decelerating)です。売上がプラスでも、EPSとFCFが大きく落ちる「分離したモメンタム」になっています。
2年の加速度:売上は上向き、利益・キャッシュは下向き
- EPS(TTM)2年CAGR:-19.90%/年(強い下向き)
- 売上(TTM)2年CAGR:+4.19%/年(強い上向き)
- 純利益(TTM)2年CAGR:-22.09%/年(強い下向き)
- FCF(TTM)2年CAGR:-14.13%/年(下向き)
この2年窓の形は、長期で見えていた「売上は増えても、直近の稼ぐ力・キャッシュが追いついていない」というズレを裏づけます。
FYとTTMで見え方が違う点:FCFマージンの差
FCFマージンはTTMで6.26%に対し、FY 2024では7.44%です。FYとTTMで見え方が異なるのは期間の違いによる見え方の差であり、短期の弱さがTTM側に強く反映されている可能性があります。
財務健全性:利払い余力はあるが、レバレッジとキャッシュクッションは厚いとは言いにくい
モメンタムが弱いときほど、倒産リスクというより「資本配分の自由度」が削られやすい点が重要です。ここでは負債、利払い能力、キャッシュクッションを簡潔に押さえます。
- 負債の重さ(自己資本比、最新FY):3.38倍
- Net Debt / EBITDA(最新FY):2.15倍
- 利息カバー(最新FY):7.00倍
- 現金比率(最新FY):0.13
利息カバーが7倍あるため、利払い余力が直ちに失われている水準には見えません。一方でNet Debt / EBITDAは自社ヒストリカルで高め側にあり、現金比率も高いとは言いづらいので、利益・キャッシュが弱い局面では「財務のクッションが厚い」とまでは言いにくい配置です。文脈整理としては、倒産リスクは直ちに強く意識される形ではないものの、レバレッジ高めの状態で回復の質(キャッシュ創出の戻り)を確認したい局面、と言えます。
配当と資本配分:LMTは“配当が主題になる銘柄”
LMTは配当が投資判断上「無視できないテーマ」に入る銘柄です。配当はおまけではなく、株主還元の柱の1つとして扱うのが自然です。
配当の現状と位置づけ(自社ヒストリカルとの比較)
- 配当利回り(TTM):2.70%
- 1株配当(TTM):13.36ドル
- 過去5年平均利回り:3.14%、過去10年平均利回り:4.01%(現在は自社ヒストリカル平均より低め)
この材料には同業他社データがないため、業界内順位の断定はできません。ただし自社の過去平均との差からは、現在の利回りは自社ヒストリカルでは低めに位置します。
配当の成長:事業成長より配当の伸びが目立つ
- 1株配当の5年成長率:+7.26%/年
- 1株配当の10年成長率:+8.89%/年
- 直近1年の増配率(TTM):+4.58%(過去5年・10年の年率より、足元は落ち着いた見え方)
配当の安全性:賄えてはいるが、余裕が厚い局面ではない
- 配当性向(利益ベース、TTM):74.05%(過去5年平均48.22%、過去10年平均52.89%より高い)
- 配当性向(FCFベース、TTM):67.71%
- FCFによる配当カバー倍率(TTM):1.48倍
直近TTMではキャッシュフローで配当を賄えています(カバー倍率は1倍超)。ただし配当性向が過去平均より高く、余裕が極端に厚い状態とまでは言いにくい、というのがデータの示す位置づけです。
配当のトラックレコード:長期実績は強いが、過去に減配年もある
- 連続配当:32年、連続増配:22年
- 直近の減配年:2002年
配当の継続・増配に関して長期実績が明確にある一方で、「一度も減配がない」とは言えない点は事実として押さえるのが適切です。
投資家適合:インカムにも総合リターンにも効くが“足元の負担感”をどう見るか
インカム投資家にとって利回り2.70%は無視できない水準で、増配実績も長い一方、直近TTMは配当性向が上がっており「実績は強いが、足元は余裕が厚い局面ではない」という見え方になります。トータルリターン重視では、利益・EPSが減速している局面ゆえ配当の負担感が相対的に増して見えますが、現時点で配当がキャッシュフローを超過している状態ではありません。
評価水準の現在地:自社の過去レンジの中で“今どこか”だけを確認する
ここでは他社比較や市場平均ではなく、LMT自身の過去5年(主軸)・10年(補助)の分布の中で、評価・収益性・レバレッジがどこに位置するかを整理します。結論を出すためではなく、いまの数字の“地図”を作る目的です。
PEG:マイナス値で、通常レンジと同じ土俵で比べにくい
- PEG(直近):-0.80
現在のPEGはマイナスで、過去に多かった「正のPEG分布(中央値や通常レンジ)」と同じ土俵で「レンジ内/上抜け/下抜け」を言いにくい状態です。直近2年はEPSモメンタムが下向きで、PEGがマイナスになりやすい局面に寄ってきた、という整理が自然です。
PER:過去5年・10年レンジの上側(上抜け)
- PER(TTM):28.36倍
PERは過去5年・10年の通常レンジを明確に上回っており、自社ヒストリカルでは割高側の位置にあります。これはTTMの利益水準が落ちている中でPERが高く出やすい、という期間要因も含みます。
フリーキャッシュフロー利回り:過去レンジの下側(下抜け)
- FCF利回り(TTM):3.88%
FCF利回りは過去5年・10年の通常レンジ下限を下回っており、自社ヒストリカルでは利回りが低い(=高い期待が織り込まれやすい)側の位置です。
ROE:過去レンジ内の中位(ただし解釈注意)
- ROE(最新FY):84.26%
ROEは過去分布の中ではレンジ内にあり中位です。ただし前述の通り、自己資本が薄い年度があり得るため、ROE単体の印象を強くしすぎないのが安全です。
FCFマージン:過去レンジの下側(下抜け)
- FCFマージン(TTM):6.26%
FCFマージンは過去5年・10年の通常レンジを下回っており、キャッシュ創出の質としては自社ヒストリカルで弱い位置にあります。
Net Debt / EBITDA:逆指標としては“高め側”(上抜け〜上限近辺)
- Net Debt / EBITDA(最新FY):2.15倍
Net Debt / EBITDAは小さいほど(マイナスならネット現金寄りで)財務余力が大きい、という逆指標です。現在値は過去5年レンジでは上抜け、過去10年でも上限近辺にあり、自社ヒストリカルではレバレッジが強めに出ている位置です。
6指標を並べた「形」:収益性はレンジ内、キャッシュ創出とレバレッジが課題側に寄る
ROEがレンジ内にある一方で、FCFマージンはレンジを下抜けしています。評価はPERが上抜け、FCF利回りが下抜けで、いずれも通常レンジから外れた位置です。財務ではNet Debt / EBITDAが過去5年レンジを上抜けしています。ここまでの整理は良し悪しの断定ではなく、後段のストーリーと突き合わせるための現在地マップです。
キャッシュフローの傾向:EPSとFCFの整合、投資由来か事業由来か
直近は「売上は伸びているのに、EPSとFCFが弱い」という形です。EPS(TTM)は前年比-35.51%、FCF(TTM)は前年比-29.41%で、利益とキャッシュが同時に弱い方向を示しています。
この材料だけでは、弱さがどの事業領域の採算悪化なのか、運転資本や工程の詰まりなのか、増産投資や供給網強化による一時的なキャッシュの見え方なのかを内訳まで断定できません。ただし投資家としては、「需要の強さ」とは別に、売上・利益がキャッシュに変わる効率(キャッシュ化の効率)が戻ってくるかどうかを、回復局面の“質”として追う必要があります。
この企業が勝ってきた理由(成功ストーリーの核)
LMTの本質的価値は、「国家安全保障で必要になる複雑なシステムを、調達(導入)から長期運用まで一貫して支えられること」にあります。戦闘機・ミサイル・宇宙・指揮統制/センサーは、単品性能だけでなく統合、機密対応、認証、継続アップデート、供給責任がセットで求められ、ここが参入障壁として機能しやすい領域です。
顧客が評価しやすいTop3(構造からの一般化)
- 信頼性と実績:失敗できないミッションで「動くこと」が価値
- 統合力:センサー、通信、指揮統制、迎撃・打撃を“全体最適”でまとめられる
- 長期運用の支援:整備・部品・ソフト更新・訓練まで任せられることがスイッチングコストになる
需要の追い風(成長ドライバー):防空需要、同盟国、ソフト更新
- 防空・迎撃需要:守るための需要が増えやすく、迎撃ミサイル増産がテーマ化
- 同盟国需要:一度採用されると長い関係になりやすい
- ソフト更新で強くなる兵器:納品後アップデートが価値になり、運用収益が厚くなりやすい
ストーリーは続いているか:最近の動きは“勝ち筋”と整合している?
直近1〜2年の変化は「需要は強いが、実力の出方(利益・キャッシュ)が追いついていない」というズレとして表れています。
- 需要面:迎撃ミサイルでは「需要がある」から一段進んで「供給を増やす」枠組みが進展
- 実行面:複雑プログラムでは遅延・不足が課題として残りやすい(F-35のアップグレード見直し、納入遅延、部品不足などが論点化)
- 数字との整合:TTMで売上は小幅プラスでも、EPSとFCFが大きく弱いのは「需要はあるが、実行・コスト・運転の難しさが利益とキャッシュを圧迫している」状態と整合しやすい
つまり、成功ストーリー(統合・長期運用・供給責任)は方向としては維持されている一方、足元は「実行の難易度が上がり、稼ぐ力の回復が確認できるまで油断できない」という現在地に寄っています。
見えにくい脆さ(Invisible Fragility):強そうに見えて、後から効いてくるポイント
ここは「今すぐ壊れる」ではなく、気づきにくい弱さが積み上がると数字に遅れて効いてくる論点です。
- 顧客依存の偏り(制度リスク):顧客が政府中心のため、調達優先順位・契約形態・監督の強さが変わると収益の出方が変化し得る
- 増産局面のサプライチェーン罠:PAC-3 MSEのような増産は正しい方向でも、部品・人・設備・品質のどこかが詰まると納期とコストに跳ねる(複線化の必要性に言及していること自体がリスクの存在を示唆)
- 複雑プログラムの遅延常態化:遅延や不足が長引くほど、成果指標の厳格化や契約条件の強化へつながりやすい
- キャッシュ創出力の弱さが静かに効く:キャッシュ創出の質が自社通常より弱い状態で増産投資や供給網強化が重なると、資本配分の自由度が落ちやすい
- 財務クッションの薄さ:レバレッジ指標が自社ヒストリカルで高め側にあるため、利益・キャッシュが弱い局面と相性が悪く、投資・増産・人材確保を同時に進めると制約が出やすい
競争環境:防衛産業は「スペック勝負」より「制度適合×実行力」の世界
LMTの競争は、広告で需要を作って価格で勝つ世界ではありません。政府調達は制度・認証・機密・安全保障要件に強く規定され、大型プログラムは開発→量産→運用→改修を数十年単位で回すため途中参入が難しい一方、分散調達や固定価格化で競争が作られることもあります。
主要競合:伝統的プライム+領域別の強豪
- RTX:防空・ミサイル防衛で競争と協業が混在(例:Patriot次世代レーダーLTAMDSが生産段階へ)
- Northrop Grumman:宇宙、ミサイル、無人などで競合しやすい(宇宙は分散調達の色も)
- Boeing(Defense):軍用航空の一部で競合(KC-46A追加契約など)
- General Dynamics:領域は完全重複でないが、国防予算内配分では競合になり得る
- BAE Systems:電子戦・地上・艦艇などで米国・同盟国調達に絡み競合になり得る
- L3Harris:センサー・通信・宇宙の一部で競合・協業
- Thales / Airbus Defence & Space:同盟国市場(特に欧州)で競合し得る
隣接プレイヤー:周辺価値を“部品化”して奪う新勢力
- Anduril:無人・自律・対ドローン等で存在感、統合役が切り出される可能性を示唆
- Palantir:データ統合・AI基盤が標準化すると、プライムの周辺価値(分析・データ基盤)を置き換え得る
領域別の競争論点:ミサイルは供給責任、航空は成果指標、宇宙は分散調達
- ミサイル・防空:性能だけでなく「増産できるか」が価値になりやすい(PAC-3 MSE増産枠組み)
- 航空:近代化(TR-3/Block 4等)や納入遅延、サステインメント(可用性)が成果指標として競争上の争点になり得る
- 宇宙:分散調達・固定価格化で入れ替え可能性が上がり、継続受注の確度が重要になりやすい
- 電子・情報:相互運用、標準化への適応、更新速度が重要で、商用ソフトの浸透が競争地図を変え得る
モート(参入障壁)は何か、どこまで持続しそうか
LMTのモートは「技術の秘密」単体ではなく、認証・機密対応、統合・試験・品質保証、サプライチェーンと生産能力、長期運用(整備・改修・ソフト更新)を回す実務という“束(バンドル)”にあります。装備寿命が長く切替コストが大きいほど、この束は強く働きます。
一方でモートが揺れるときは「技術で負けた」よりも、納期遅延の常態化、維持・可用性の未達、供給不足(増産できない)、契約・監督の強化で利得構造が変わる、といった実行面から来やすい点が重要です。
AI時代の構造的位置:追い風だが“取り分の分解”にも注意
LMTは「AIを作る会社」というより、「AIをミッション環境で安全に動かし、複数システムを統合して成果に変える会社」へ寄っています。AI時代に強くなる点と弱くなる点が同時に存在します。
強くなり得る理由(構造)
- ネットワーク効果:一般消費者向けではなく、同盟国・複数ドメイン運用で標準化と相互運用が進むほど切替コストが上がりやすい
- データ優位性:広告データではなく、運用・整備・製造の現場データを機密要件下で扱えることが価値になりやすい
- AI統合度:個別AI機能より、複数AIをつなぐ統合レイヤー(STAR.OS)に比重が移っている
- ミッションクリティカル性:高保証AI(誤作動・説明不能・改ざん耐性への要求が厳しい)の土俵で戦うため、参入できる企業が限られやすい
- 参入障壁の耐久性:AIが進んでも、物理システムの製造・試験・認証・継続供給の制約は残りやすい
弱くなり得るポイント(構造)
- AI代替リスク:中核(兵器・統合システム・運用支援)が丸ごと置き換わるリスクは相対的に低い一方、「分析・ソフト・データ基盤」周辺では専門AIベンダーに価値の一部を奪われる可能性がある
- レイヤー位置:基盤(汎用モデルそのもの)は外部大手と協業し、LMTはミドル(統合・運用・高保証)中心+一部アプリの構図になりやすいが、統合だけだと利幅が出にくい圧力が生まれ得る
経営・文化:オペレーション志向が強みになり、同時に“遅さ”の露出点にもなる
公開情報から整理すると、CEO(James Taiclet)のメッセージは「スピードとスケールで必要能力を届ける」「制度の許す範囲で商用的なやり方を取り込む」「AIは作るより安全に運用し統合して成果にする」に収れんしています。PAC-3 MSEの増産枠組みや、設備・自動化・人材・サプライヤー投資を強調する語りは、LMTの強み(供給責任、統合)を太くし、弱点(実行面)を潰しにいく方向と整合します。
人物像・コミュニケーションの特徴(公開情報の範囲)
- オペレーション志向:「作れるか・回せるか」を前面に出す(生産量、投資対象など定量・実務の語り口)
- 制度設計・枠組み志向:契約形態やインセンティブ設計を重視し、「枠組み→行動→成果」で語りやすい
- 価値観:ミッション遂行と信頼性、納期・供給の確実性、納税者と株主への価値を同時に語る
文化として起きやすいこと:統合を尊重し、意思決定は慎重になりやすい
- 実行重視:増産は設計よりも製造・品質・試験・部材・人を束ねる総力戦になり、現場で回す文化が評価されやすい
- 統合尊重:部門間の調整、プロセス、認証を尊重しやすく、その副作用として意思決定が慎重(=遅いと見られやすい)になり得る
- 投資配分:設備・自動化・人材・サプライヤー投資へ意思決定が向きやすい
- AIの取り込み:PoCではなく運用・監査・維持まで含めた“運用導入”に寄りやすい
従業員レビューに出やすい一般化パターン(個別引用なし)
- ポジティブ:ミッション性が強く社会的意義を感じやすい/役割分担が明確/品質・手順重視に安心感
- ネガティブ:手続き・承認・コンプライアンスが多くスピード感が出にくい/部署・プログラムで働き方のばらつきが出やすい/再編・コスト最適化局面では心理的安全性が揺れやすい
長期投資家との相性:長期テーマに強い一方、資本配分の緊張が注視点
需要が長期化しやすい産業で供給責任を軸に投資(設備・人・サプライヤー)を正当化しやすい点は、長期投資の時間軸と噛み合います。一方、足元は利益・キャッシュの勢いが弱い局面で増産投資も必要になり得るため、配当継続姿勢が強い銘柄として「投資と還元の同時達成」がより注目されやすい局面です。またCFOが社内ベテランへ交代しており、急変より継続性が働きやすい人事と整理できますが、資本配分メッセージには影響し得ます。
“型”の整合性チェック:Stalwartとして見たいが、足元は不一致寄り
長期ではStalwart寄りの性格がある一方、直近TTMの実績でその型が維持されているかを点検すると、売上の安定性は概ね一致するものの、稼ぐ力(EPS/FCF)は不一致寄りです。
- 一致:売上成長(TTM +2.88%)で事業規模は崩れていない
- 一部一致:ROE(最新FY 84.26%)で収益性が低い企業ではない方向性はある(ただし解釈注意)
- 不一致寄り:EPS成長(TTM -35.51%)、FCF成長(TTM -29.41%)で安定成長の見え方が弱い
- 不一致寄り:PER(TTM 28.36倍)が自社過去レンジより高めで、減益局面と同時に見ると噛み合いにくい
総合すると、長期で置いた「Stalwart寄り+減速局面を含むハイブリッド」という但し書きとは整合しますが、直近1年の数字だけを見ると純粋なStalwartとしては分類維持が難しい、という整理になります。
Two-minute Drill:長期投資家が押さえるべき“投資仮説の骨格”
LMTを長期で見る本質は、「防衛需要が強い」ではなく、「複雑システムを導入から長期運用まで回す実行力が、利益とキャッシュに戻っているか」です。需要が強いほど、増産・サプライチェーン・品質保証・納期管理の難易度が上がり、ストーリーは強いのに数字が弱いというズレが起き得ます。
- 強みの核:認証・機密対応・統合・供給・長期運用を束ねる“国防インフラ”能力
- 追い風の質:AIは新しい売上の魔法というより、製造・整備・運用の実行力を上げられるかが焦点
- いまの論点:売上は伸びてもEPS/FCFが弱いズレを、実行改善で縮められるか
- 資本配分の緊張:増産投資・供給網強化と、配当を軸とする還元姿勢の同時成立
投資家がモニタリングしたい実行KPI(株価ではなく“現場変数”)
- ミサイル(PAC-3 MSE等):生産・納入ペースが計画通りに上がるか、主要部材の複線化が進むか
- 航空(F-35中心):近代化(TR-3/Block 4)の節目、納入遅延の縮小、部品不足の解消が進むか
- サステインメント:稼働率・可用性の改善が成果指標としてどう扱われるか(摩擦が増えるか減るか)
- 宇宙:分散調達の中で継続的に受注側に残れるか、短サイクル刷新に対応できる開発・製造テンポがあるか
- 電子・情報/AI:商用ソフトの標準化がどこまで進み、周辺価値の外部化圧力が強まるか
- 財務・配当:利益・キャッシュ回復と、配当継続(配当性向の高まりを含む)が無理なく両立するか
AIと一緒に深掘りするための質問例
- ロッキード・マーチンは売上が増えているのにTTMでEPSとFCFが大きく減っているが、どの事業領域(航空・ミサイル・宇宙・電子/情報)で採算悪化やコスト増が起きている可能性が高いか、公開情報から仮説を分解してほしい。
- PAC-3 MSEの増産(年間約600発→約2,000発)を数年で実現する上で、部材・試験設備・人材・品質工程のどこが最もボトルネックになりやすいか、一般的なミサイル製造工程から具体的に洗い出してほしい。
- F-35の近代化(TR-3/Block 4)や納入遅延が長引く場合、契約条件(成果指標・監督強化・インセンティブ設計)がどの方向に変わりやすく、利益率やキャッシュ化にどう波及し得るかをシナリオで整理してほしい。
- ロッキード・マーチンが打ち出すSTAR.OSのような「AI統合レイヤー」は、AndurilやPalantirなど隣接プレイヤーに価値を奪われるリスクと、逆に参入障壁を強化する可能性の両面があるが、どの条件でどちらに傾くかを条件分岐で示してほしい。
- 配当性向(利益ベース74.05%、FCFベース67.71%)とNet Debt/EBITDA(2.15倍)が同時に高めの局面で、増産投資が重なると資本配分の制約がどこから先に顕在化しやすいか(配当成長率、追加借入、投資ペースなど)を整理してほしい。
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