この記事の要点(1分で読める版)
- BlackRock(BLK)は、資産運用の手数料ビジネスを軸にしつつ、投資管理ソフトAladdinとデータ統合(Preqin)を外販して「投資業務の基盤」を握りにいく企業。
- 主要な収益源は、ETF(iShares)を含む運用残高ベースの手数料と、投資業務テック(Aladdin等)の継続収益であり、今後はプライベート市場(インフラ、プライベート・クレジット)の比重を高める方向。
- 長期ストーリーは、公開+非公開の運用を「投資+データ+ワークフロー」で束ね、金融のミドル〜基盤で標準位置を取ることで、薄利になりやすい入口(ETF)だけに依存しない構造を作ること。
- 主なリスクは、ETFの構造的な手数料引き下げ圧力、大口顧客や提携への依存、Aladdinが内製化・統合で剥がれるリスク、買収と統合が遅れた場合にコストだけが残る実行リスク。
- 特に注視すべき変数は、残高成長と手数料単価の関係、売上成長と利益成長のズレの内訳(コスト/価格/ミックス)、Preqin統合の進捗と顧客定着、Aladdinの大口更新・解約の傾向。
※ 本レポートは 2026-01-17 時点のデータに基づいて作成されています。
1. まずは事業を中学生でもわかるように:BLKは何をして、どう儲ける会社か
世界中の「お金の置き場所」を作り、運用の手数料をもらう会社
BlackRock(ブラックロック、BLK)は、世界中の人や組織からお金を「預かって運用する」会社です。年金や保険会社、政府系資金のような巨大な資金を中心に、企業や金融機関、富裕層向け運用会社、そして個人投資家まで幅広く関わります。儲け方の中心はシンプルで、運用している残高(預かり資産)の大きさに応じて手数料を受け取るビジネスです。
ETF(iShares)で「薄く広く長く」資金を集める
BLKの重要な柱が、iShares(アイシェアーズ)というETFブランドです。ETFは個人にも買いやすく、金融機関の提案にも組み込まれやすいため、資金流入の波を取り込みやすい特徴があります。これは「低コストで分散」という投資の長期トレンドと相性が良く、BLKにとって追い風になりやすい領域です。一方で、ETFは同等品が増えやすく手数料が見えやすいので、価格(手数料)競争が起きやすい土俵でもあります(この“強みと弱みの同居”は後半で掘ります)。
プライベート資産(インフラ、プライベート・クレジット等)で高付加価値側へ伸ばす
近年のBLKは、上場株・国債などの公開市場だけでなく、インフラ(空港、送電網、データセンター等)や、企業向け融資・未上場企業投資などのプライベート領域を太くする方向へ寄っています。プライベート資産は設計も運用も難しい分、一般に手数料が成立しやすく、収益ミックスを厚くしやすいのが特徴です。実際に同社は、インフラ投資に強いGlobal Infrastructure Partners(GIP)を取り込むなど、インフラを「将来の柱」に押し上げる姿勢を明確にしています。
投資のためのソフトウェア(Aladdin)を外販する、“運用会社っぽくない”もう一つの顔
BLKを特別にしているのは、運用会社であると同時に、投資管理ソフト「Aladdin(アラディン)」を銀行・保険・運用会社などに提供する点です。Aladdinを中学生向けに言うと、投資の世界の「司令塔」で、たくさんの投資データをまとめ、リスクを見える化し、ルールに沿って管理・レポートする仕組みです。
このタイプのソフトは一度導入すると業務に深く組み込まれ、乗り換えが大変になりやすい(スイッチングコストが高い)ため、長期で使われやすい構造を持ちます。ただし後述の通り、「高い粘着性」と「大口顧客の事情で剥がれるリスク」が同居するのも現実です(UBSが契約終了し自社システム移行を進めた事例が報じられています)。
将来に向けた取り組み:投資+データ+ソフトを“セット”で握りにいく
BLKは「投資商品を作って運用する」だけでなく、プライベート市場のデータ会社Preqinを取り込み、Aladdin/eFrontと結びつけることで、投資(商品)+データ(透明性)+日々の管理(ソフト)を一体提供する構想を強めています。プライベート資産の課題である「見えにくさ(値付け、成績、比較、説明責任)」を、データとワークフローで埋めにいく発想です。
例え話:巨大な食料品店と、その物流システムを同時に持つ
BLKは、投資商品の品揃えが広い「巨大な食料品店」であり、その裏側の「物流システム(投資管理ソフト)」も作って売っている会社、という比喩がしっくりきます。店が大きいほど物流が強くなり、物流が強いほど店が回る――この循環が、同社の理解の近道です。
ここまでが「何をしている会社か」です。次に、そのビジネスが数字としてどんな“型(成長ストーリー)”を持ってきたのかを、長期と短期に分けて確認します。
2. 長期ファンダメンタルズ:BLKはどんな成長の“型”を積み上げてきたか
売上・EPS:5〜10年で見ると「中程度の成長」を継続
FY(通期)ベースの長期推移では、BLKは成熟企業としてはしっかり伸びてきた部類に入ります。
- EPSの年平均成長率(FY、5年):約+8.1%
- EPSの年平均成長率(FY、10年):約+8.2%
- 売上の年平均成長率(FY、5年):約+7.0%
- 売上の年平均成長率(FY、10年):約+6.3%
つまり、爆発的な高成長(Fast Grower)というより、規模を拡大しながら着実に伸びる「プラットフォーム型の成長」に近い姿です。
ROE:二桁だが、過去5年では改善トレンドが強いとは言いにくい
資本効率(ROE)は最新FYで約13.4%と二桁を維持しています。一方で、過去5年のトレンドは弱含み方向(相関がマイナス)とされており、「改善し続ける企業」というよりレンジで推移している可能性を示唆します。
FCF:5年で強く見えるが、10年で見ると伸びは緩やか(期間で見え方が変わる)
- FCFの年平均成長率(FY、5年):約+12.3%
- FCFの年平均成長率(FY、10年):約+4.5%
- 最新FYのFCFマージン:約23.0%(過去5年レンジ内で中央値付近)
5年ではFCF成長がEPSや売上より強く見える一方、10年に伸ばすと緩やかに見えます。これは「期間の違いによる見え方の差」であり、どちらか一方だけで常に右肩上がりと断定しないのが安全です。なお、TTM(直近12か月)のFCFやFCFマージンはデータが十分でなく算出できないため、足元のFCFについては後段でも断定を避けます。
長期の1株価値:自社株買い方向(株数減)もEPSを補助してきた可能性
長期のEPS成長は、売上の拡大が土台になりつつ、発行株式数が減ってきた(自社株買い方向)ことが1株利益を押し上げる補助要因になっている可能性が高い、という整理です。なお、自社株買い金額そのものの直接データがないため、比率や総還元性向は数値で断定しません。
3. ピーター・リンチの6分類で見ると:BLKはどの型に近いか
BLKは、データ上は単純にFast Grower/Stalwart/Cyclicalなどの1分類に押し込むより、「Stalwart寄りのハイブリッド型(資産運用プラットフォーム)」として捉えるのが整合的です。
- 根拠:FYベースでEPSと売上が5〜10年で中程度に伸びている(EPS約+8%台、売上約+6〜7%)
- 一方で:直近TTMではEPSがマイナス成長であり、「常に堅実成長」とも言い切れない
- また:長期で赤字→黒字の切り返しに依存するターンアラウンド型とは言いにくい
運用ビジネスは市場環境の影響を受けやすく、堅実さと感応度が同居します。この“同居”がまさにハイブリッドです。
4. 直近(TTM/8四半期)のモメンタム:長期の“型”は維持されているか
結論:成長モメンタムは「減速(Decelerating)」
判定基準(直近1年の伸びが5年平均を上回るか)に基づくと、BLKの成長モメンタムは減速と整理されています。主因は、直近1年(TTM)のEPS成長がマイナスで、FYベースの5年平均成長率を下回るためです。
売上は強いが、EPSは弱い(トップラインと利益が一致していない)
- 売上(TTM):242.16億ドル、売上成長率(TTM前年同期比):+18.67%(加速)
- EPS(TTM):33.57、EPS成長率(TTM前年同期比):-17.24%(減速)
- 純利益成長率(TTM前年同期比):-12.81%
直近1年は「売上は二桁成長なのに、利益側が落ちている」組み合わせです。理由の推測はここでは行わず、投資家にとって重要な事実として「利益成長は減速」とだけ整理します。
利益率の直近推移:営業利益率は四半期で低下が確認される
- 営業利益率(四半期、直近):23.70%
- 営業利益率(四半期、ひとつ前):30.04%
- 営業利益率(四半期、さらに前):31.92%
四半期ベースでは直近で営業利益率の低下が見え、TTMのEPS弱含みと同方向のシグナルになっています(単発要因の断定はしません)。
FCFモメンタム:データが十分でなく評価が難しい
直近TTMのフリーキャッシュフローが取得できておらず、FCF成長率やFCF利回りも算出できないため、FCFのモメンタム(加速/安定/減速)は判定できません。参考として、TTM系列の直近2年ではFCFが微増〜横ばいに近い(2年CAGR +1.45%、相関 -0.04)という情報はありますが、最新TTMが欠けている点に注意が必要です。
5. 財務健全性(倒産リスクも含む):レバレッジ、利払い、キャッシュクッション
レバレッジ:過度に借入で成長を作る型には見えにくい
- 負債資本倍率(最新FY):約29.9%
- Net Debt / EBITDA(最新FY):-0.04倍(マイナスでネット現金に近い値域を示唆し得る)
- 現金比率(最新FY):126.64%
最新FY時点の指標からは、財務余力を残す運営に見えます。少なくとも「借入依存で無理に伸ばしている」形とは言いにくい、という整理が可能です。
短期の注意点:利息カバーが四半期でマイナスになった局面がある
- 利息カバー(四半期、直近):-103.81倍
- 利息カバー(四半期、ひとつ前):4.94倍
- 利息カバー(四半期、さらに前):14.02倍
- 利息カバー(最新FY):14.27倍
直近四半期で利息カバーがマイナスになっており、短期の利益面のブレが安全性指標にも反映されています。一方で、FYベースでは14.27倍と確認できており、FYと四半期は時間軸が異なるため、これは期間の違いによる見え方の差として整理するのが適切です。
倒産リスクの文脈整理
本材料の範囲では、ネット有利子負債倍率がマイナスに近く、現金比率も厚めであることから、資金繰り面でただちに逼迫している姿は読み取りにくいです。ただし、短期の利益の揺れが利払い余力の四半期指標に出ている点や、プライベート領域拡大局面の信用イベント耐性(後述)など、監視点は残ります。
6. 配当と株主還元:長いトラックレコードと、足元データの空白を分けて見る
配当の基本水準:足元利回りは評価が難しいが、長期平均は確認できる
今回のデータではTTM(直近12か月)の配当利回りとTTMの1株配当が取得できていないため、足元の利回り水準は断定しません。一方でFYベースの長期平均は把握できます。
- 過去5年平均の配当利回り(FY平均):約2.61%
- 過去10年平均の配当利回り(FY平均):約2.91%
増配ペース:長期は高め、直近1年はそれより低い
- DPS成長率(FY、5年CAGR):約+8.97%
- DPS成長率(FY、10年CAGR):約+10.14%
- 増配率(TTM、直近12か月):約+2.88%
5〜10年では増配ペースが高めに見える一方、直近1年のTTM増配率はそれより低く、足元では長期平均より鈍い局面だった可能性があります(理由の推測はしません)。
配当性向と安全性:長期平均は中間的、TTMは評価が難しい
- 配当性向(FY、過去5年平均):約50.12%
- 配当性向(FY、過去10年平均):約46.95%
TTMの配当性向はデータが十分でなく評価が難しいため、足元の配当負担は断定しません。長期平均としては、極端に低い/高いではない中間的水準に見えます。また、TTMのFCFが取得できていないため、配当のFCFカバー倍率やFCFベースの配当性向も算出できず、キャッシュフロー面の裏取りは今後の更新待ちです。
配当の継続性:長い履歴は確認できるが「常に無条件」は置かない
- 配当年数:23年
- 連続増配年数:15年
- 最後の減配(またはカット):2009年
配当が断続的な企業とは言いにくい一方で、過去に減配があった年も明示されているため、「必ず増配し続ける」といった断定は避けるべき、という整理です。
配当+自社株買い:数字は出せないが、株数減の履歴は重要
BLKは長期的に発行株式数が減少してきた履歴があり、配当と並んで自社株買いが1株価値の押し上げに寄与してきた可能性があります。ただし、自社株買い金額の直接データがないため、配当と自社株買いの比率や総還元性向は数値で断定しません。
同業比較は今回は行わない(データ制約の明示)
本材料はBLK単体データであり、同業他社の配当利回り・配当性向・カバー倍率は含まれていません。したがって、業界内の順位づけは行わず、「長い配当履歴と増配の継続が確認できる」という性格の整理にとどめます。
どんな投資家に向くか(データ上の整理)
- インカム投資家:TTM利回りが評価できないため利回り目的の魅力度は断定できないが、過去平均2.6〜2.9%と長い履歴は補助材料になり得る
- トータルリターン重視:配当だけでなく、株数減(自社株買い方向)を含めて株主還元を捉える方が整合的
- 注意点:直近TTMのEPSが前年同期比で-17.24%であり、利益減速は配当安全性の文脈でリスク要因として扱われる
7. 評価水準の現在地(自社ヒストリカル比較のみ):6指標で「配置」を確認する
ここでは市場平均や同業比較ではなく、BLK自身の過去(主に5年、補助として10年)に対して、現在がどこにあるかだけを整理します。結論や推奨は出しません。
(1)PEG:マイナスのため、通常レンジ比較が難しい
- PEG(株価=本レポート日):-2.01
直近のEPS成長率(TTM前年同期比)が-17.24%とマイナスであるため、PEGがマイナスになっています。この局面では、過去5年・10年の通常レンジ(正のPEGが前提になりやすい)に置いて「高い/低い」を語りにくく、数値の事実提示にとどめるのが整合的です。直近2年のEPS(TTM)は2年CAGR -7.72%、トレンドも低下方向で、PEGが不安定化しやすい背景として整理されています。
(2)PER:過去5年・10年の通常レンジを上抜け
- PER(TTM、株価=本レポート日):34.65倍
- 過去5年の通常レンジ(20–80%):16.17〜23.48倍
- 過去10年の通常レンジ(20–80%):13.25〜20.47倍
現在のPERは、過去5年・10年の通常レンジを明確に上回る位置(上抜け)にあります。直近TTMで利益成長がマイナスの局面である点と合わせると、「利益の勢いと評価倍率が同方向に上がっている」とは言いにくい構図が読み取れますが、ここでは自社ヒストリカルの位置づけに留めます。
(3)フリーキャッシュフロー利回り:算出できないため現在地は確定できない
フリーキャッシュフロー利回り(TTM、株価=本レポート日)はデータが十分でなく算出できないため、過去5年・10年レンジに対して内側/上抜け/下抜けの判定はできません。参考として分布の中心は、過去5年中央値が3.61%、過去10年中央値が4.87%です。
(4)ROE:5年では下側寄り、10年では通常レンジ内
- ROE(最新FY):13.41%
- 過去5年通常レンジ(20–80%):13.66%〜14.32%
- 過去10年通常レンジ(20–80%):12.99%〜14.30%
ROEは最新FYで13.41%と二桁ですが、過去5年レンジではわずかに下側を下回る位置にあります。一方で過去10年では通常レンジ内であり、5年と10年での見え方の差は時間軸の違いとして扱うのが適切です。
(5)フリーキャッシュフローマージン:TTMは評価が難しいが、FYでは過去5年の中央付近
TTMのフリーキャッシュフローマージンはデータが十分でなく評価が難しいため現在地は確定できません。参考として、FYベースの直近水準は23.04%で、過去5年分布の中央値(23.04%)と一致しており、過去5年の中央付近という整理は可能です。
(6)Net Debt / EBITDA:マイナスで、過去レンジ内(財務レバレッジは極端ではない)
- Net Debt / EBITDA(最新FY):-0.04倍
- 過去5年通常レンジ(20–80%):-0.11〜-0.03倍
- 過去10年通常レンジ(20–80%):-0.16〜-0.03倍
この指標は値が小さい(マイナスが深い)ほど現金が多く財務余力が大きい「逆指標」です。最新FYの-0.04倍は過去5年・10年いずれでも通常レンジ内で、ヒストリカルに見て極端なレバレッジ局面ではない位置です。
6指標を並べた「現在地」まとめ(配置)
- PER(TTM)は過去5年・10年レンジを上抜け(ヒストリカルでは高いゾーン)
- PEGはマイナスでレンジ比較が難しい
- FCF利回りとTTMのFCFマージンは算出できず現在地が確定しない(FYではFCFマージンが中央付近)
- ROEは5年ではやや下側寄り、10年では通常レンジ内
- Net Debt / EBITDAはレンジ内で、財務レバレッジは極端でない
8. キャッシュフローの傾向(質と方向性):EPSとFCFの整合性をどう扱うか
成長の“質”を見るうえで、EPS(会計利益)とFCF(現金創出)が噛み合っているかは重要です。ただしBLKは、直近TTMのFCFが取得できておらず、足元のFCFによる整合性点検はこの材料だけでは評価が難しいです。
一方でFYベースでは、FCFマージンが約23%と一定水準にあり、FCF成長率も5年と10年で見え方が変わる(5年は約+12.3%、10年は約+4.5%)ため、投資や統合コストが先行する局面では「短期の利益・キャッシュ指標が揺れやすい」可能性を織り込んで観察するのが現実的です。直近の「売上は強いが利益が弱い」というズレが、投資由来の一時的なものか、事業採算の構造変化(手数料圧力など)かは、次の開示で分解して追うべき論点になります。
9. BLKが勝ってきた理由(成功ストーリーの核):なぜ選ばれ、規模が拡大してきたのか
勝ち筋は「資金の入口」と「運用の裏側(業務基盤)」を同時に握る循環
BLKの本質的価値(Structural Essence)は、世界の資産を預かって運用する巨大な配分装置であることに加えて、その運用を支える基盤ソフト(Aladdin)を外販できる点にあります。これにより、単なる運用会社よりも「産業のバックボーン(裏方の標準)」に寄りやすい構造を持ちます。
顧客が評価しやすいTop3(一般化パターン)
- 規模と信頼性:巨額資金を預けるうえでの運用体制・リスク管理・商品数の厚み
- 商品ラインナップの広さ:ETF〜カスタム運用〜プライベート資産まで揃う“メニュー”
- 基盤(Aladdin的ワークフロー価値):規制・説明責任が重いほど、基盤ソフトの価値が上がる
顧客が不満に感じやすいTop3(一般化パターン)
- ETFは価格が見える:同等商品が増えるほど手数料への不満が表面化しやすい
- プライベート資産は見えにくい:透明性・評価・説明責任の負荷が高く、情報提供が弱いと不満になりやすい
- 投資テックは依存が強い:乗り換えコストが高いがゆえに、更新・統合・移行負荷が不満として溜まりやすい
10. ストーリーは続いているか:最近の戦略は成功ストーリーと整合しているか
「ETF中心の巨大運用会社」から「公開+非公開+データ+ソフト」の総合プラットフォームへ
最近の動き(Preqin=データ、HPS=プライベート・クレジット、GIP=インフラ)は、単なる事業の足し算というより、公開市場と非公開市場を「まとめて扱う」提供形態へ移行する意図として読めます。これは、もともとの成功ストーリー(入口×裏側の循環)を、プライベート領域にまで拡張する動きで、方向性としては整合的です。
“規模で勝つ”から“統合で勝つ”へ:実行難易度が上がる
PreqinデータをAladdin/eFrontに統合していく話は、顧客価値になり得る一方で、企業内部の統合ロードマップの難易度を引き上げます。統合が遅い・複雑だと顧客体験が悪化しやすい点は、成功ストーリーの継続性を左右する「実行」の論点です。
コスト圧力と利益のブレが物語に混ざり始めている
直近では、売上・資産の伸びが強い一方で、費用増や買収関連コストなどが利益を押し下げたと報じられています。これは直近TTMで見える「売上と利益の非一致」と同方向で、拡張期のコスト負担が前面に出やすい局面と整理できます。
11. 見えにくい脆さ(Invisible Fragility):強そうに見えるほど、どこが崩れ得るか
ここで挙げるのは「今すぐの危機」ではなく、ストーリーと数字がズレたときに表面化しやすい弱点です。
- 大口依存の偏り:巨大機関マネーや大口提携が成長を押し上げる一方、更新・条件変更・解消の影響も大きい。資金流入が分散して厚いのか、大口に寄っているのかは継続監視が必要(この材料だけでは偏りを断定しない)。
- ETFの手数料圧力が構造的に続く:競合の値下げは業界の収益性をじわじわ削りやすい。BLKはスケールで吸収しやすいが、長期では「規模は増えるが単価は下がる」形で利益が鈍りやすい。
- プロダクト差別化の喪失:ETFのような同等品領域では差別化がブランドや流通に寄りやすく、価格競争の影響を受けやすい。
- ベンダー依存(サプライチェーン的リスク):製造業の部材依存は小さいが、データ供給や外部プラットフォーム連携への依存は残る。Preqinデータの外部提供拡大は成長要素である一方、契約・品質管理の複雑性を上げる。
- 組織文化の劣化:大型買収の連続は文化・評価・意思決定の摩擦を生みやすい。人員削減報道のような効率化局面では、現場負荷や士気の問題が出やすい(単発で断定はしない)。
- 収益性の劣化が“継続”するリスク:直近の「売上は強いが利益が弱い」ズレが、拡張期コストや競争圧力で長引くとストーリーの説得力が落ちる。
- 利払い能力の悪化は現状低そうだが、論点はプライベート領域の信用イベント:財務余力が大きく毀損している形では見えにくい一方、プライベート・クレジット拡大は信用イベント増加局面で運用の難易度が上がる。外部でデフォルト率に言及があり、“運用の質”としての見えにくいリスクになる。
- 公開→非公開への移行は機会でも負担でもある:非公開は説明責任・データ整備・レポーティング負荷が高い。戦略は「投資+データ+ソフト」で解くことだが、統合が遅れると複雑さだけが増える。
12. 競争環境(Competitive Landscape):BLKはどの土俵で、誰と戦っているか
競争は3レイヤー(ETF/プライベート市場/投資業務テック)が重なっている
BLKの競争は「運用成績」だけではなく、少なくとも次の3つの戦場が同時に走っています。
- パブリック市場の運用(特にETF中心のパッシブ運用+アクティブ運用)
- プライベート市場(インフラ、プライベート・クレジット等の案件×運用×管理)
- 投資業務テック(運用・リスク管理・レポーティングなど日次業務の基盤)
最も競争が激化しやすいのはETF(同等品が増えやすく価格競争になりやすい)で、最も差が出やすいのはプライベート市場(案件供給や専門性が勝負)と投資業務テック(導入後の業務組み込みが深い)です。
主要競合(領域別に顔ぶれが変わる)
- ETF:Vanguard、State Street(SPDR)、Fidelity、Schwab、Invesco など(Vanguardの大規模フィー引き下げ継続が価格圧力の象徴)
- プライベート市場:Blackstone、KKR、Apollo、Brookfield(インフラ)など
- 投資業務テック:統合プラットフォーム各社、データ/端末/ワークフローで隣接するBloombergなど
勝てる理由・負ける可能性(構造要因の棚卸し)
- 勝てる理由になり得る:運用残高の規模があるほど商品横展開が効く、ETF(広い入口)とプライベート(深い入口)を束ねやすい、テックは業務に埋まるほど置換が難しい
- 負ける可能性になり得る:ETFは差がコストと流通に寄りやすく薄利化しやすい、テックはロックインが強い一方で顧客の内製化・統合で剥がれる可能性がある(UBSの事例)
今後10年の競争シナリオ(楽観・中立・悲観)
- 楽観:ETFが入口として機能し続け、プライベート市場で案件供給と運用・レポーティング体制が整い、データ+業務テックが非公開資産の標準化で存在感を増す
- 中立:ETFの資金流入は続くが単価圧力は常態化、プライベート市場の成長は波打ち、テックは粘着性を保ちつつ一部大口で内製化・解約が散発
- 悲観:ETFの薄利化が長期化し、プライベート市場で信用イベントが続き、テックで大口内製化が連鎖してロックイン前提が揺らぐ(ただし全面代替が一気に進むとは限らない)
投資家がモニタリングすべき競争関連KPI(変数の列挙)
- ETF:実質手数料水準の変化、販売チャネル(プラットフォームやモデルポートフォリオ)での採用/外れ
- プライベート市場:新規資金獲得ペース、信用イベント局面での説明と実績、インフラ案件パイプライン
- 投資業務テック:大口顧客の更新/解約/内製化が増えているか、データ統合が業務価値に転換できているか
- クロスセル:公開のみから公開+非公開+テックへ、提供範囲が拡張しているか
13. モート(Moat)と耐久性:どこに参入障壁があり、どこが薄いか
モートが形成されやすい核:「運用×データ×ワークフロー」が結びつく“標準位置”
BLKのモートは、ブランドだけでなく、運用(公開+非公開)×データ×業務ワークフローが結びついたときに強くなりやすい構造です。特に非公開資産はデータと業務が複雑で、標準化の価値が相対的に大きくなりやすいため、Preqin統合は「置き換えの難易度」を上げる方向の動きです。
モートが薄くなりやすい核:ETFの同等品領域
ETFのベータ系商品は同じ指数を追う同等品が多く、比較が容易でスイッチングコストが低くなりがちです。この領域では、モートは「コストと流通」に寄り、超過収益の源泉としては薄くなりやすい、という整理になります。
耐久性を左右するのは「統合の実行」
BLKは買収と統合を通じて土俵を増やす戦略が明確です。そのぶん、統合が遅れると顧客体験が悪化し、組織摩擦やコストだけが先行しやすい点が、モートの耐久性を左右します。
14. AI時代の構造的位置:追い風の中身と、逆風になり得るところ
結論:AI時代に「金融のミドル〜基盤」に食い込みやすい
BLKのAIポジションは「運用会社」単体ではなく、運用の規模に加えて、基盤ソフト(Aladdin)とデータ(Preqin)を束ねる複合体で決まります。したがって、AI時代の位置づけは「アプリ」ではなく、ミドル寄りの基盤に寄りやすい、という整理が最も整合的です。
AIが追い風になりやすい領域
- ネットワーク効果:運用残高の規模と、運用オペレーションの標準化(基盤ソフトの普及)が間接的に強まる
- データ優位性:プライベート市場の透明性不足という構造課題に対し、Preqinデータを業務に結びつけた形で押さえにいく
- AI統合度:生成AIによる分析・説明の文章化などが、顧客ワークフローに組み込まれ始めている(例:富裕層・アドバイザー向けのAI機能実装)
- ミッションクリティカル性:規制・説明責任が重く、停止や誤りが許されない領域ほど基盤ソフトの価値が上がりやすい
- 参入障壁:統合された業務基盤と、データの整備・更新・監査可能性が障壁になる
AIが逆風(あるいはリスク顕在化)になり得る領域
- ETF:AIが普及しても同等品は同等品のままで、手数料の見えやすさが価格競争を助長し得る
- 基盤ソフト:ロックインが強い反面、顧客の統合・内製化で剥がれるリスクが現実にある(UBSの契約終了事例)
15. リーダーシップと企業文化:統合戦略を回し切る“組織の性格”
CEO Larry Finkのビジョン:公開+非公開を束ねる長期資本パートナーへ
創業者でCEOのLarry Finkは、BLKを従来型の運用会社から、公開市場とプライベート市場までを“まるごと束ねる”長期資本パートナーへ変身させる方向を明確に言語化しています。また、プライベート市場をより投資しやすい市場にするための透明性・データ整備の重要性を強調しており、「投資+データ+ソフト」を束ねる戦略と整合します。
人物像(公開発信からの抽象化):統合・標準化・説明責任に重心
- ビジョン:金融のインフラ(公開+非公開、データ、リスク管理、ワークフロー)を統合する志向
- 意思決定の癖:単発の商品より、構造そのものの再設計を好む
- 価値観:長期資本、データとリスク管理を信頼の源泉とみなす
- 線引き:公開市場の運用だけで完結する従来型運用会社への回帰は退ける方向
文化として現れやすいもの:プロセスの重さと統合の優先
「統合」「標準化」「信頼=リスク管理と説明責任」という価値観は、文化としてプロセスや監査可能性に重心が置かれやすいことを意味します。これはミッションクリティカルな業態では強みになり得る一方、統合が続く局面では承認の重さや変化疲れとして摩擦にもなり得ます。
従業員レビューの一般化パターン(個別引用なし)
- 高いプロ基準と厳密さ:品質や信頼に直結しやすいが、意思決定が重く感じられることがある
- 顧客優先でミス許容度が低い:長期顧客を守りやすいが、短期的負荷が高くなり得る
- 統合・再編が続く局面では役割や優先順位が変わりやすい(変化疲れの類型)
- 出社方針の厳格化:週4日出社方向や管理職の出社増が報じられており、協働にはプラスでも柔軟性重視層にはマイナスに働き得る
ガバナンスの補助線:体制強化は本気度の表れであり、統合難易度も上げる
GIP買収後に、GIP創業者のBayo Ogunlesiを取締役会に迎えるなど、インフラを中核として扱う体制強化が進んでいます。これは戦略の本気度を示す一方、文化統合の難易度を上げる可能性もあり、長期では重要な観察点です。
16. 「売上は伸びているのに利益が弱い」局面をどう扱うか:投資家の観察ポイント
足元TTMで最も重要な事実は、売上が+18.67%と強い一方で、EPSが-17.24%と弱いことです。ここに対して、次の3つの分解軸で決算資料を追う価値がある、という整理が材料に含まれています。
- コスト増(人件費・システム投資・統合費用)なのか
- 価格(手数料)要因なのか(ETFの薄利化圧力が効いているか)
- 収益ミックス要因なのか(低単価領域の伸びが先行したか)
この分解ができると、「統合投資が先行している移行期」なのか、「単価・採算の構造が変わり始めた局面」なのかの見立てが作りやすくなります。
17. Two-minute Drill(長期投資家向け総括):BLKを評価する“骨格”
- BLKは「世界の資産を預かる入口(ETF等)」と「投資業務の裏側(Aladdin等)」を一体で持つプラットフォーム企業であり、規模が循環を生む構造を持つ。
- 長期(FY、5〜10年)では売上・EPSが中程度に伸び、ROEも二桁を維持してきたため、リンチ分類ではStalwart寄りのハイブリッドが最も自然になる。
- 短期(TTM)では売上が強い一方でEPSが落ち、営業利益率も直近四半期で低下しており、長期の“型”が利益面では揺れている局面として扱う必要がある。
- 財務面ではNet Debt / EBITDAが-0.04倍で極端なレバレッジではない一方、利息カバーは四半期でマイナスが出ており、短期の利益ブレが指標に表れている(FYとQの時間軸の違いも踏まえる)。
- 長期の競争優位は「運用(公開+非公開)×データ(Preqin)×ワークフロー(Aladdin/eFront)」が標準位置を取り得る点にあり、AIはこの“標準化”を後押しし得る。
- 一方の見えにくい脆さは、ETFの構造的な手数料圧力、大口顧客依存、基盤ソフトの内製化・統合による剥がれ、統合が遅れたときにコストだけが残る実行リスクにある。
AIと一緒に深掘りするための質問例
- BLKの直近TTMで「売上+18.67%なのにEPS-17.24%」となった要因を、コスト増・手数料単価・収益ミックスの3軸で分解するには、決算のどの注記やKPIを見ればよいですか?
- Preqin×Aladdin/eFrontの統合が進んでいるかを、顧客価値(透明性、レポート効率、導入事例)として検証するための観察指標を具体化してください。
- ETFの薄利化圧力がBLKの長期利益に与える影響を、「残高成長」と「残高あたり収益(手数料単価)」の関係でモデル化するには、どんな仮定が必要ですか?
- Aladdinのスイッチングコストが本当に維持されているかを、UBSの契約終了のような事例を“傾向”として判定するには、どんなデータ(契約、ARR、解約率、顧客集中)を追うべきですか?
- プライベート・クレジット拡大に伴う信用イベント耐性を、運用の質として点検するには、どのリスク指標や説明(デフォルト、損失率、ビンテージ、レバレッジ)を読み解くべきですか?
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